荒布あらめ)” の例文
くちびるをキュッと結び、寒気を耐えるように、両腕を首の下で締めつけると、ずるりと落ち、荒布あらめの下から、それは牝鹿めじかのような肩が現われた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人家のない岩蔭に、波が砂を洗って、海松みる荒布あらめを打ち上げているところがあった。そこに舟が二そう止まっている。船頭が大夫を見て呼びかけた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いわゆる非人やけというやつで、顔色がどす黒く沈んで、手足がひびだらけ。荒布あらめのようになった古布子をきて、尻さがりに繩の帯をむすんでいる。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
往昔むかしまだ吉原が住吉町、和泉町、高砂町、浪花町の一廓にあったころ、親父橋から荒布あらめ橋へかけて小舟町三丁目の通りに、晴れの日には雪駄、雨には唐傘と
十歳とおばかりの男の子に手を引かれながら、よぼ/\して遣ってまいり、ぼろ/\した荒布あらめのような衣服きものを着、肩は裂け袖は断切ちぎれ、恐しいなりをして居ります。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鬱蒼たる老樹の幹には蔦葛つたかずらの葉が荒布あらめのようにからみ着き、執念深く入り乱れた枝と枝とは参差しんしとして行く手の途を塞ぎ、雑草灌木の矢鱈無上に繁茂した湿っぽい地面につゝまれて
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
荒布あらめとも見える襤褸頭巾ぼろずきんくるまって、死んだとも言わず、生きたとも言わず、黙って溝のふちに凍り着く見窄みすぼらしげな可哀あわれなのもあれば、常店じょうみせらしく張出した三方へ、絹二子きぬふたこの赤大名
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいは又ヨジユムを作って見ようではないかと、色々書籍しょじゃく取調とりしらべ、天満てんま八百屋市やおやいちに行て昆布荒布あらめのような海草類をかって来て、れを炮烙ほうろくいっ如何どう云うふうにすれば出来ると云うので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
荒布あらめ橋、江戸橋、海賊橋と橋を四つ、左へ廻つて箱崎橋——一にくづれ橋——港橋、靈岸橋と橋を三つ渡らなければなりませんが、眞つ直ぐによろひの渡しを渡れば眼と鼻の間で、丸屋の土藏の二階窓から
有王 (登場、魚と荒布あらめとを持っている)ただいま帰りました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
烏賊いかがいる。荒布あらめなびき、大きな朱色の蟹が匍い、貝が光る。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
伊勢荒布あらめの名産を中間ちゅうげんに持たせて行った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
荒布あらめ橋、江戸橋、海賊橋と橋を四つ、左へ廻って箱崎橋——一にくずれ橋——港橋、霊岸橋と橋を三つ渡らなければなりませんが、真っ直ぐによろいの渡しを渡れば眼と鼻の間で、丸屋の土蔵の二階窓から
のぞいてみると、小原はナイト・ガウンを着てベッドの端に掛け、綴りにつづって手のほどこしようもない荒布あらめのようなカッタウェーの裏絹を、そここことひきよせながら骨を折ってとじつけていた。
復活祭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)