芬々ぷんぷん)” の例文
辻には——ふかし芋も売るから、その湯気と、烏賊いかを丸焼に醤油したじ芬々ぷんぷんとした香を立てるのと、二条ふたすじの煙が濃淡あいもつれて雨になびく中を抜けて来た。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芬々ぷんぷんと香水のにほひがして、金剛石ダイアモンドの金の指環を穿めて、殿様然たる服装なりをして、いに違無ちがひないさ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……さては今見たのは狐の嫁入よめいりでなかったろうか? あとな菜の花が芬々ぷんぷんと烈しく匂うていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
樟脳しょうのうの匂いの芬々ぷんぷんするなかで、母親を相手に、老婦としよりはまたお饒舌しゃべりを始めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芬々ぷんぷん薫る処を、波々と、樽からいでくれたから、私はごくごくと傾けた。美酒うまざけの鋭さは、剣である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分のはだに手を触れて、心臓むねをしつかとおさへた折から、芬々ぷんぷんとしてにおつたのは、たちばな音信おとずれか、あらず、仏壇のこう名残なごりか、あらず、ともすれば風につれて、随所
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
風邪薬かざぐすりを一ちょう凍傷しもやけ膏薬こうやく一貝ひとかい買ひに行つた話は聞かぬが、春のあけぼの、秋の暮、夕顔の咲けるほど、ほだゆる時、夜中にフト目のむる折など、町中まちなかめて芬々ぷんぷんにお
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
路になだはござりませぬが、樽の香が芬々ぷんぷんして、たこも浮きそうな凪のさ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)