船着ふなつき)” の例文
「舟の中へ? それじゃなにかえ、宮川を下る筏舟いかだぶねの中へ隠れてこの船着ふなつきへ来て、夜になって忍んでここへやって来たというわけだね」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すぐ川堤かわづつみを、十歩とあしばかり戻り気味に、下へ、大川おおかわ下口おりくちがあつて、船着ふなつきに成つて居る。時に三艘さんぞうばかりながれに並んで、岸の猫柳に浮いて居た。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いきなり杖に手をかけてはと思って、船着ふなつきの混雑の中で、梅颸のふところへ手をやると見せ、実は杖を奪おうとしたのだった。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なれど此の高岡は家数やかずも八千軒もある処で、良い船着ふなつきとこじゃが、けれども江戸御府内にいた者は何処どこへ行っても自由の足りぬものじゃ、さぞ不自由は察しますぞよ……お梅はんわしをお前忘れたかえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
岩も水も真白な日当ひあたりの中を、あのわたしを渡って見ると、二十年の昔に変らず、船着ふなつきの岩も、船出ふなでの松も、たしかに覚えがありました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大湊は神代からの因縁いんねんのある古い古い船着ふなつきであります。この小屋なども百年を数える古い建前たてまえであって、磯の香りや木の臭気でむしむしと鼻をつのでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これから何十町か先まで行けば、嫌でも船着ふなつきがあって、乗る客も降りる客もあるにちがいない。それをここから呶鳴っては船中にある敵に心支度をさせるようなものではないか、というのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸ちょいと、其の高楼たかどの何処どこだと思ひます……印度インドの中のね、蕃蛇剌馬ばんじゃらあまん……船着ふなつきの貿易所、——お前さんが御存じだよ、私よりか
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「もう船着ふなつき茶屋が床几しょうぎを重ねておる。川にも船が見えぬ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸ちよいと高樓たかどの何處どこだとおもひます……印度インドなかのね、蕃蛇剌馬ばんじやらあまん……船着ふなつき貿易所ぼうえきしよ、——おまへさんが御存ごぞんじだよ、わたしよりか
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それがまたかんが悪いと見えて、船着ふなつきまで手をひかれて来る始末だ。無途方むてっぽうきわまれりというべしじゃないか。これで波の上をぐ気だ。みんなあきれたね。険難千方けんのんせんばんな話さ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかで悪くば海で稼げって、がけの下の船着ふなつきから、夜になると、男衆につかまえられて、小船に積まれて海へ出て、月があっても、島の蔭の暗い処を、危いなあ、ひやひやする
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)