般若湯はんにゃとう)” の例文
鰹節を「チワ(痴話)ブミ」、とも「恋文」ともいう、忍んで「カク」。まぐろは「赤豆腐」。酒は「般若湯はんにゃとう」。どじょうを「踊り子」。
符牒の語源 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
また謡曲うたいの中には「あらあら恐ろしの般若声はんにゃごえ」という言葉もあります。それからお坊さんの間ではお酒の事を「般若湯はんにゃとう」といいます。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ときは一とき。やがて般若湯はんにゃとう(酒)もすっかり廻ると、また祭壇へ出て宵のお経。また休息、またお経。明け方ぢかくまでそれがつづく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オイ。了念了念。昨夜ゆんべ般若湯はんにゃとうの残りがあろう。ソレソレ。それとあのギスケ煮(博多名産、小魚の煮干にぼし)の鑵を、ここへ持って来なさい
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
般若湯はんにゃとうの方は坊さんも飲むからと言って、制限を加えません。ハッハヽヽ。俄か普請の大伽藍とは、広瀬さんも皮肉ですな」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ある日八人の山伏たちは、兵衛から届けられた般若湯はんにゃとうを、炉の火であたため汲みかわしながら、山伏言葉で話していた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼奴は悟りの分らない担板漢でくのぼうだなどと言つて般若湯はんにゃとうで気焔をあげてもゐられるけれども、然し、かういふ約束の足場は確固不動のものではないから
真宗以外におおぴらで肉食妻帯する者はなかったが、だいこく、般若湯はんにゃとう、天がい等の何をさす名か、知らない者はなかったのが一般のありさまであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
越して三島の近辺、とある山寺に一宿なし主僧と汲んだ般若湯はんにゃとうなどが、まず拙者が飲んだ酒の中での第一じゃ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「てかてか顔のほてっているところを見ると、またひのき稲荷いなりへ回って、般若湯はんにゃとうでも用いてきたな」
お経のあとでは持ち寄りのご馳走や、般若湯はんにゃとうの供養でたのしい一夕をすごす習慣になっている。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
さざなみや志賀の浦曲うらわの、花も、もみじも、月も、雪も、隅々まで心得て候、あわれ一杯の般若湯はんにゃとうと、五十文がほどの鳥目ちょうもくをめぐみたまわり候わば、名所名蹟、故事因縁の来歴まで
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これがお寺の所得になり寒夜の般若湯はんにゃとうに化けたり獣肉鍋ももんじゃなべに早変わりしたりする。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
坊主が酒を般若湯はんにゃとうというということは世間に流布しているが、鶏を鑽籬菜さんりさいというということは本を読まないものは知らない。鶏を貰った処が、食いたくもなかったので、生かして置こうと思った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「てへへん、これは結構な般若湯はんにゃとうでげす。やれやれ、わしどもの口には二度と這入るまい因果な奴でな」
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「おらあ、酒を呑みゃあ、きッと、やりそくなう——いや、もう、大した間違えをやらかしたんだ。それで、般若湯はんにゃとうはおことわりにしたのよ。だから、呑まねえ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「えッへへへへ、どうもね、この通り般若湯はんにゃとうですっかり骨までも軟かくなったんで、うれしまぎれに御殿様の御容子を拝見に参ったんでござんす。一件の女的あまてきはばれましたかい」
坊主が般若湯はんにゃとうをのむというのは落語や小咄こばなし馴染なじみのことだが、あれは大概山寺のお経もろくに知らないような生臭坊主で、何代目かの管長候補に目されている高僧は流石さすがに違う。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いっさいがっさいがまたお寺にちなんだ抹香まっこう臭いものばかりなんでしたが、しかし酒は般若湯はんにゃとうと称して飲むことを許され、しかもその日の会費はしみったれな割り勘なぞではなく