臆劫おっくう)” の例文
雨の降る日には傘を差す臆劫おっくうを省く事が出来た。彼は自宅から縁側伝いで勤めに出た。そうして同じ縁側を歩いてうちへ帰った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少し都合もあって其日は行かれず、電報、手紙も臆劫おっくうだし、黙って打置うちおき、あくる日になって宇治に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここまでやって来ると、もう二人ともすこし疲れて、それに腹がへっていましたから、ものを言うのさえ臆劫おっくうなのでした。だまって川の端の石の上へ腰をおろしました。
峠はけわしく、口を開くのも臆劫おっくうで、話も途切れた。驢馬はすべりがちで、許生員はあえぎ喘ぎ幾度も脚をめなければならなかった。そこを越える毎に、はっきりとおいが感じられた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
そこで女房を貰おうと思うが、媒妁なこうどが入って他家ほかから娘子あまっこを貰うというと、事が臆劫おっくうになっていかねえから、段々話い聞けば、あの男が死んでしまうと、わしは年が行かないで頼る処もない身の上だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何時だか、時計を出すのも臆劫おっくうだ、朝だか夜中だか解らない。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
で、段々、私は何かをやるのが臆劫おっくうになって来ました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
時としては、ただ頭を使うのが臆劫おっくうになった。けれども努力さえすれば、充分複雑な仕事に堪えるという自信があった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一纏ひとまとめにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫おっくうになったり、ほどくのに手数がかかったりするので、いざという場合には間に合わない事が多い。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな場所ではちょっと身体からだの位置をかえるのさえ臆劫おっくうそうに見える肥満な彼は、坐ってしまってからふと気のついたように、半分ばかり背後うしろを向いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
起き上る事の臆劫おっくうな彼は出来るだけ口先で間に合せようとした。彼は産についての経験をただ一度しかっていなかった。その経験も大方は忘れていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしはその翌日よくじつも暑さをおかして、頼まれものを買い集めて歩いた。手紙で注文を受けた時は何でもないように考えていたのが、いざとなると大変臆劫おっくうに感ぜられた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、こういう研究は私にはちょっと臆劫おっくうでなかなかできないから、歴史的に行くと自然現代の西洋作家を実価以上にかぶへいが起りやすいだろうと思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちょっと今のうち一風呂ひとふろ浴びていらっしゃい。またそこへ坐り込むと臆劫おっくうになるから」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は少し風邪かぜの気味で、座敷へ出るのが臆劫おっくうだといって、私をその書斎に通した。書斎の硝子戸ガラスどから冬にってまれに見るような懐かしいやわらかな日光が机掛つくえかけの上にしていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)