おどか)” の例文
そのうちに、石の一箇が、勘太のひたいにぶつかった。血は片眼を塗りつぶした。勘太は近づくものを脇差でおどかしてみたが効がなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部厚ぶあつの芳名録には、一流の道場主が続々と名前を書いてくれるから、次に訪ねられた道場では、その連名だけでおどかされる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして八畳の納戸なんどで着物を畳みつけたり、散かったそこいらを取片着けて、ごみを掃出しているうちに、自分がひどくおどかされていたような気がして来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お前が三十里も歩く間、俺はヂツとして居る筈は無いぢやないか。あのお菊といふ娘をおどかしたり、すかしたりこれだけのことを言はせるのに二日かゝつたよ」
いくらかおどかし気味でもあつた。尋常にぬげばすぐぬげる短靴たんぐつが、ちよつと脱ぎ悪くさうにも見えた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
あの火事騒ぎをやっているに医学博士を僧院の中へ案内した。医学博士が宿屋だといったのは、犯人たちが博士をおどかして、あのようにいわせたのだとボートルレは語った。
「思い止まった。家作に二人もいるんだから、今更看板を出してもおどかしにならない」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「オイ小僧、ブローニングでおどかされないうちに、早く帰れよ」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
主膳におどかされた時は、少なくとも抵抗するの気力がありました。またその人に追われた時も逃げる隙がありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わざとやかましく言っておどかして見るのだろうという気もする。あれくらいなことは、今日は失敗しくじっても、二度三度と慣れて来れば造作なく出来そうにも思える。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おどかしに白刃を見せたら、或はもろく逃げ散るかも知れないと思ったが、土民とはいえ、領主の身を思っての赤誠せきせいであってみると、案外、そうでないかも分らない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盲目地めくらぢの袷に、豆絞りの頬冠ほゝかぶりで、懷中ふところに呑んでゐた匕首あひくちを拔いて、おどかしながら——俺は黒雲五人男の一人だ、岡つ引の家を承知で入つたが、ジタバタすると命が危ない。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
第一候補者を横取りした責任上、閣下は僕に勝るとも劣らないような秀才を賠償ばいしょうとして橋本家へ差向けるかも知れないと言っておどかしてやりました。安達君、流石に顔色を変えましたよ
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
昼からかけての心のふるへは漸く薄らいだが恐怖は却つてはつきりした知覚を以て彼をおどかした。彼が拘禁された留置場は三畳の独房であつた。戸口が一つあるきりで四方は天井の高い壁で囲つてある。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
といって、畏れというのは、サーベルや、鉄砲でおどかすことではない。権柄けんぺいずくで人民を圧制することでもない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おゆうがくるまで飛込んでいった時、生家さとではもう臥床ねどこに入っていたが、おゆうはいきなり昔し堅気の頑固がんこな父親に、頭からおどかしつけられて、一層つきつめた気分で家を出た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
味噌久をおどかして、古道具屋を呼ばせ、世帯一式、付け値の七両二分で、売り払ってしまった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれはおどかしだよ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どこの畜生だか知らねえが、人をおどかしやがる畜生だ、この近所ではついぞ見かけたことのねえ畜生だが、いやはや、馬鹿と狂犬やまいぬほど怖いものはないと太閤様が申しました」
「いくらお前が隠したって、捜そうと思えばわけはないよ。まかり間違えば、警察の手を仮りることも出来るし、田舎を騒がして、突ッつきだすという方法もある。」そうも言っておどかした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
俺らが本所に留守番を頼まれていた時分に、その泥誅をおどかしてやったのはいい心持だった
馬上の武士に鉄砲でおどかされた七兵衛は、林へ飛び込んで木の繁みをくぐって北へ逃げた。
まず第一、お前の体格なら、誰が見ても一廉ひとかどの武芸者と受取る。そこで、武芸者らしい服装をして、しかるべき剣術の道具を担って、道場の玄関に立ってみろ、誰だっておどかされらあ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若い娘をおどかして、その後生大事な髪飾りを強奪した、そういう奴を許してはおけない、ということで、それが勿来の関に向って押しかけて来るところへ、白雲が、この被害品を小腋こわきにして
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鍋焼饂飩は、股慄こりつしながら、やっとそれだけ言いました。斬られたとは言うけれど、斬られている様子はない。単におどかされたものか、或いは他の斬られたのを見て、自分が斬られたと思ったのか。
おどかしちゃいけません、もう懲々こりごりでございます」
おどかしてみたのじゃ」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)