肘掛ひじかけ)” の例文
色あせたカーテンや、肘掛ひじかけのすりきれたビロードの椅子、なんのかざり気もない診察室で、高橋氏は連日患者に接している。
先生は「ヤア」と云って、そこの肘掛ひじかけ椅子に腰をかけられたが、僕達の取交していた話題を鋭敏に察しられた様子で
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「むずかしいですね」と、Kは言い、口もとにしわを寄せ、唯一のつかみどころである書類が覆われているので、ぐったりと椅子の肘掛ひじかけくずれかかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
そして恐る恐る扉を開けた。この室は他の室とは違っている。壁には肘掛ひじかけきれがあり、とこには絨氈が敷いてある。
千世子は大きな籐椅子にって肘掛ひじかけに両肘をもたせて両手の間に丸あるい顔をはさんでじいっとして居た。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
オーケストラのすぐそばに、若い公爵夫妻が、二つの古い肘掛ひじかけいすにこしかけているのが見えました。
気味の悪いほど真味しんみな顔色で、お綱がトンと肘掛ひじかけへ身をもたせてきたので、万吉は目の前へタラリと下がった被布ひふの色地をみつめながら、ちょっと後の言葉を絶句した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、古ぼけた籐椅子とういすに、背をもたせかけた。それから、肘掛ひじかけの裏をさぐって、ボタンを指先でさぐった。番号の4という釦を押すと、足許の岩がバネ仕掛けの蓋のように、ぽんと開いた。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
教授は教壇の肘掛ひじかけ椅子にだらしなく坐り、さもさも不気嫌そうに言い放った。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
見ると出がけに確かにかんのきを入れて南京ナンキン錠を卸しておいた筈の青ペンキ塗りの門の扉が左右に開いて、そこから見える玄関の向って左の一間四方ばかりの肘掛ひじかけ窓からは、百燭ぐらいの蒼白い電燈が
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雪子が這入はいって来て見ると、長椅子一つだけを残して、テーブルや肘掛ひじかけ椅子を全部取りけ、絨毯じゅうたんを一方へグルグル巻きにして片寄せ、妙子が部屋の中央に、つぶし嶋田に鴇色ときいろ手絡てがらを掛けた頭で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まず中央に紫檀したん細工の丸型のテーブルが据えてあり、それを取り巻いて二脚の牀几しょうぎと、深張りの一脚の肘掛ひじかけ椅子と、そうしてこれも深張りの長い寝椅子とが置いてあったが、肘掛椅子と寝椅子とに
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人はむつかしい顔付をして、小波さざなみのようにちらめきはじめた混乱にぼんやりしながら部屋へ戻り、肘掛ひじかけ椅子に深く身を埋めたが、自分はいったい今迄何事をそんなに緊張していたのかしらと思った。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
恒川氏と明智とは、そのグッタリとした文代さんを抱いて、とりあえず書斎の長椅子ながいすへと運んだ。ついでに女中さんのよく太ったからだもそこの肘掛ひじかけ椅子の柔かいクッションへ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と答えて、あの大きな眼を、さもうれしげに一杯に開いて見上げながら、彼が立っている肘掛ひじかけ窓の真下まで寄って来たが、手を伸ばして抱き上げようとすると、たいかわしてすうッと二三尺向うへ逃げた。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
文代さんが、壁のスイッチを押して天井の電燈をつけようとすると、明智はなぜかそれを止めて、大きな肘掛ひじかけ椅子に腰をおろした。文代さんはそれに相対して、小型の椅子につく。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)