聞惚ききと)” の例文
「身に染む話に聞惚ききとれて、人通りがもう影法師じゃ。世の中には種々いろいろな事がある。お婆さん、おかげ沢山たんと学問をした、難有ありがとう、どれ……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞惚ききとれて居升と、主人はます/\得意に商買口をきく、見たりきいたりして居る私はかねての決心も何もかも忘れ果てゝむやみと風琴が欲しくなり
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
とさも聞惚ききとれたる風を装おい、愉快おもしろげに問いかくれば、こは怪談の御意に叶いしことと亭主はしきり乗地のりじとなり
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬被ほおかむりの中のすずしい目が、かまから吹出す湯気のうちへすっきりと、出たのを一目、驚いた顔をしたのは、帳場の端に土間をまたいで、腰掛けながら、うっかり聞惚ききとれていた亭主で
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と図に乗って饒舌しゃべるのを、おかしそうに聞惚ききとれて、夜のしおの、充ち満ちた構内に澪標みおつくしのごとく千鳥脚を押据えてはばからぬ高話、人もなげな振舞い、小面憎かったものであろう
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、御深切に、」と、話に聞惚ききとれたお若は、不意に口へ出した、心の声。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まったくお話しに聞惚ききとれましたか、こちらがさとはなれて閑静な所為せいか、ちっとも気がつかないでおりました。実は余り騒々そうぞうしいので、そこをげて参ったのです。しかし降りそうになって来ました。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大粒なしずくは、また実際、ななめとも謂わず、すぐともいわず、矢玉のように飛び込むので、かの兀頭はげあたまの小男は先刻さっきから人知れず愛吉の話に聞惚ききとれて、ひたすら俯向うつむいて額をおさえているのであったが
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私も聞惚ききとれていた処、話の腰を折られては、と知らぬ顔で居たっけよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞惚ききとれていた三造は、ここではじめて口を入れたが
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞惚ききとれていたお夏は急にあどけないことをいった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい、つい、あのお話しに聞惚ききとれまして、」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と思わず聞惚ききとれる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)