翕然きゅうぜん)” の例文
翕然きゅうぜんとして宗教の門へ向って集中されつつあるのが事実で、ここにこそ現代に於ける「宗教」の客観的な意義があるわけだからである。
技術の哲学 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
ここに於て、翕然きゅうぜんとして輿論は今起りつつあると信じますのである。これは憲政の発達のために、甚だよろこぶべきことであると思います。
憲政に於ける輿論の勢力 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
家中一同の同情は、翕然きゅうぜんとして死んだ二人の武士の上に注がれた。「さすがは武士じゃ。見事な最期じゃ」と、褒めそやす者さえあった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それまで政治以外に青雲の道がないように思っていた天下の青年はこの新らしい世界を発見し、俄に目覚めたように翕然きゅうぜんとして皆文学にはしった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
翕然きゅうぜんとして、非難は彼を中心にやかましい。——が、誰がという、火元の弾劾者だんがいしゃの知れないのも、こういう場合の常である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長江もそういう風にしたら天下の同情が翕然きゅうぜんとして集ることは明かだのに、彼は最も下手へたな遣り方をしている
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして世間には誰れもその不都合をならす者は一人も無く、学者は皆翕然きゅうぜんとしてこれに従うたのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
理由は勅使饗応の大任を帯びている身でありながら宿意をもって殿中を騒がしたる段不届至極であるというのである。民衆の同情はたちま翕然きゅうぜんとして内匠頭にあつまった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
あの声は勇猛精進ゆうもうしょうじんの声じゃない、どうしても怨恨痛憤えんこんつうふんおんだ。それもそのはずさ昔は一人えらい人があれば天下翕然きゅうぜんとしてその旗下にあつまるのだから、愉快なものさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
更紗さらさ屋、手相見、人相見のやからが翕然きゅうぜんと集合して来て、たちまち身動きが取れなくなる。
たちまち翕然きゅうぜんとして時代のふうをなすまでに、貞享じょうきょう元禄げんろくの俳感覚はき活きとしていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「これに次いで字を識り文を作るの徒を募り、博物材技の流を雇わん。ここにおいて利を知りて義を知らず、書を知りて道を知らざるの人、翕然きゅうぜんとして附同し、蟻集してよう集せん」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いのりには効あり、ことばにはげんありければ、民翕然きゅうぜんとして之に従いけるに、賽児また饑者きしゃにはを与え、凍者には衣を給し、賑済しんさいすること多かりしより、ついに追随する者数万に及び、とうとびて仏母と称し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天下翕然きゅうぜんとしてモーツァルトを惜しみ、旧居を憧憬者しょうけいしゃの多いのに驚いて、始めて自分が十年同棲どうせいした夫が、不世出の大天才であったことを「わずかに悟った」にすぎなかったと言われている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
翕然きゅうぜんとパッカアの上に集まった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
もう六十路むそじをこえた老婆だと聞えたので——同情は翕然きゅうぜんとしてその年寄にあつまり、武蔵には反対なものが、御採用という機会に、一時に現れたものらしいとの話であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ実に新興文芸の第一声であって、天下の青年は翕然きゅうぜんとして文学の冒険に志ざした。
そして右はこれら景仰けいこうせられた一流学者のした事でもあるので、その後多くの学者は皆翕然きゅうぜんとしてその説に雷同し、杜若はヤブミョウガであるとしてあえてこれを疑うものはほとんど無かった。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
大学者の蘭山がそういうのだから間違いは無いと尊重してそれから後の学者は翕然きゅうぜんとして今日に至るもなおその学説を本当ダと思い、この誤りを踏襲してやはりその名でその植物を呼んでいる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そして右はこれら景仰せられた一流学者のしたことでもあるので、その後多くの学者はみな翕然きゅうぜんとしてその説に雷同し、杜若はヤブミョウガであるとしてあえてこれを疑うものはほとんどなかった。
カキツバタ一家言 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)