羽団扇はうちわ)” の例文
旧字:羽團扇
では小さい面が光のぐあいで大きく映ったのかしらと床柱の側まで行って見ると、そこに掛かっているのはただ羽団扇はうちわと円い団扇だけであった。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これとても狩野古方眼かのうこほうげんが始めて夢想したという説もあって、中古にはころも羽団扇はうちわなどを持った鼻高様はなたかさまは想像することができなかったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
九仞きゅうじんの上に一簣いっきを加える。加えぬと足らぬ、加えるとあやうい。思う人にはわぬがましだろ」と羽団扇はうちわがまた動く。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羽団扇はうちわもなにも持っちゃいなかったし、あたりまえの旅人のなりをしていたんだが、その足のはやいこと……すっとすれ違ったと思ったら、あの地蔵辻から
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
カタンという戸の開く音、一挺の駕籠から現われたのは、の衣にときん篠懸すずかけ、羽団扇はうちわを持った人物で、天狗の面をかぶっている。すなわち僧正天狗である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……こっちの木の葉より、羽団扇はうちわの毛でもちっとはましだろうと思うから、お酌をしますとね、(聞け——娘。)と今度はお酌のおかげで、狐が娘になったんですがね。
昨年見た「流行の王様」という映画にも黒白の駝鳥だちょう羽団扇はうちわを持った踊り子が花弁の形に並んだのを高空から撮影したのがあり、同じような趣向は他にもいくらもあったようであるが
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ただし昔話にある羽団扇はうちわを持った、鼻の高い、赤い顔の、あんなのではない。普通の人間で、ちゃんと両親もある、兄弟もある。武州御岳山おんたけさんで生れたんだ。代々山伏だ。俺の先祖は常陸坊海尊ひたちぼうかいそん
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「古きつぼには古き酒があるはず、あじわいたまえ」と男も鵞鳥がちょうはねたたんで紫檀したんをつけたる羽団扇はうちわで膝のあたりを払う。「古き世に酔えるものならうれしかろ」
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも、手でなんぞ尋常なんじゃなくッて、羽団扇はうちわはたいたのかも知れません。……ああ、あの、緋葉もみじがちらちらと散りますこと。ひとりで散れば散るんですけれど。
「天王寺の妖霊星ようれいぼし!」羽団扇はうちわで膝をたたきながら、僧正天狗、頼宣卿、さも豪壮に歌いだした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
書斎の壁にはなんとかいう黄檗おうばくの坊さんの書の半折はんせつが掛けてあり、天狗てんぐ羽団扇はうちわのようなものが座右に置いてあった事もあった。セピアのインキで細かく書いたノートがいつも机上にあった。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
或いは天狗の羽団扇はうちわあざむき奪う話などと同様に、だんだんに敵の愚かさが誇張せられて、聴く人の高笑いを催さずには置かなかったのは、武勇勝利の物語に、負けてげた者の弱腰を説くのと
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)