美津みつ)” の例文
正吉の重みで梯子段はしごだんきしむと、お美津みつ悪戯いたずららしく上眼でにらんだ。——十六の乙女の眸子ひとみは、そのときあやしい光を帯びていた。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
慎太郎はふと耳をすませた。誰かが音のしないように、暗い梯子はしごあがって来る。——と思うと美津みつが上り口から、そっとこちらへ声をかけた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今度も、別荘の主人が一所いっしょで、新道の芸妓お美津みつ、踊りの上手なかるたなど、取巻とりまき大勢と、他に土地の友だちが二三人で、昨日から夜昼なし。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お父さんがその気だから、美津みつなんかだって、家にいられねえんだよね。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「お美津みつやあい!」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もう着換えのすんだ慎太郎は、梯子の上り口にたたずんでいた。そこから見える台所のさきには、美津みつが裾を端折はしょったまま、雑巾ぞうきんか何かかけている。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お美津みつ、おい、一寸ちよつと、あれい。」とかた擦合すりあはせて細君さいくんんだ。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
叔母は易者えきしゃの手紙をひろげたなり、神山と入れ違いに来た女中の美津みつと、茶を入れる仕度にいそがしかった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
美津みつ下駄げたうてやるか。)とつてたが、だまつて返事へんじをしなかつた。貞淑ていしゆくなる細君さいくんは、品位ひんゐたもつこと、あたか大籬おほまがき遊女いうぢよごとく、廊下らうか會話くわいわまじへるのは、はしたないとおもつたのであらう。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)