わな)” の例文
そう思っていると私の心にある巧みな計略のわなが見えて来た。凡てが私のために張られた羂であったかも知れないと私は思った。
運命のままに (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どうしてもつと堂々と文子の美点を強調し、文子の美点に比べたなら、わなにもかからぬ老獪な狐のやうな卓一の心をあばいてやらなかつたのであらうか。
なぜ安心したかと云ふに、猩々は同じ棒を伝つて下りて来るより外はないから自分でわなに掛かつたやうなもので、もう掴まへられさうだと思つたからである。
わなは破れて鳥はのがれた!(詩編一二四の七)。パリサイ人もヘロデ党もイエスの言葉尻をつかむどころか、舌を巻いてびっくりしてしまった(一二の一七)。
わなに富める者乃ち答へて曰ひけるは、ともの悲しみを増さしむれば、我は至極の奸物わるものなるべし 一〇九—一一一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もちや網で捕れるつぐみひはの類はおびたゞしい數でした。雀などは小鳥の部にも數へられないほどです。子供ですら馬の尻尾の毛で雀のわなを造ることを知つて居ました。
決してわたくしが陰険な事をいたしたとか、あなたをわなに掛けたとかお思いになってはいけません。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
ものを見ないようにする方がいっていうもんだから、ここはちょうど人通の少い処、そっと目をふさいで探って来たので、ついとんだわな蹈込ふみこんださ、意気地いくじはないな、忌々いまいましい。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の進退はここにきはまるとともに貫一もこの場は一寸いつすんも去らじと構へたれば、遊佐はわなに係れる獲物の如く一分時毎に窮する外は無くて、今は唯身に受くべき謂無いはれなき責苦を受けて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
足柄あしがら彼面此面をてもこのもわなのかなるしづみあれひもく 〔巻十四・三三六一〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あゝ失策だ! 出発点で! 何たるまずいこの狼〔狽〕! すっかりわなまったのだ。向ふは平然この動揺を看取する。早く自然を取り戻さう。一秒遅れゝば一秒の敗、山を想はう。
疑獄元兇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わなにかかっていた川鴈かわがんを助けたことが、むしろやや唐突とうとつに語り添えられてあるのを見ると、そういう話しかたも試みられていたことはわかるが、もとは二人の男女の相喜ぶというだけでも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「マルヒユスさんもわなでひどく顔が変ました。頸にひどい痕が附いて。」
いまのわたしは、くるしいさびしい悪魔のわなにつつまれてゐる。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
すなわち今度は皆で押しかけないでパリサイ派とヘロデ党の中から数名の論客を選抜し、イエスの言葉尻をとらえてわなにかけようとする、小股こまたすくいの悪辣あくらつな戦法に出たのであります。
そしてすべてが人をわなにかけるための企らみと芝居になつてしまふのだつた。
代匠記では鹿鳴間沈カナルマシヅミで、鹿の鳴いて来る間に屏息へいそくして待っている意に取ったが、或は、「か鳴る間しづみ」で、わなに動物がかかって音立てること、鳴子なるこのような装置でその音響を知ることで
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「納税用の通貨たるローマ貨幣はカイザルに、奉納用の通貨たるユダヤ貨幣は神に」——、この機知に富んだ答弁は、反対者のかけたわなを粉砕するに足りた。しかしただそれだけではない。