縦令たとひ)” の例文
旧字:縱令
縦令たとひ、それが娘自身の発意であるにしろ、男子として、殊に硬骨な父として、どんなに苦しい無念なことであらうかと思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
わたくしは狩谷懐之が、縦令たとひ多少書を読んでゐたとしても、必ずしも大商店を経営する力をば有せなかつたものと推する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
渠等かれらつう原則げんそくまもりて俗物ぞくぶつ斥罵せきばするにもかかはらず。)然しながら縦令たとひ俗物ぞくぶつ渇仰かつがうせらる〻といへども路傍みちばた道祖神だうろくじんの如く渇仰かつがうせらる〻にあらす
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
是を以つて知る、縦令たとひ罪過に拘泥するも、運命の解釈さへ誤ることなければ、決つして命数の弊に陥るのうれひなきを。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
誠実に研究すべきことを研究せんとするものなれば、縦令たとひ如何なることありて他人の攻撃に遭ふことありとも、之に向つて答弁するものと必せず、又容易に他人の所論を難ずる等の事なかるべし。
われ縦令たとひ王者にえらばるるとも
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
また縦令たとひ自殺の決心が、本当でおありになつたとしても、それをわたくし一人の責任のやうに、御解釈なさることは、御免蒙りたいと思ひますわ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
わたくしの思ふには、縦令たとひ茶山が朴斎を傲慢なりとなしたとしても、此ことは必ずしも朴斎を傷くるものでは無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
縦令たとひ石橋いしばしたゝいて理窟りくつひね頑固ぐわんことうことの如く、文学者ぶんがくしやもつ放埓はうらつ遊惰いうだ怠慢たいまん痴呆ちはう社会しやくわい穀潰ごくつぶ太平たいへい寄生虫きせいちうとなすも、かく文学者ぶんがくしや天下てんか最幸さいかう最福さいふくなる者たるにすこしも差閊さしつかへなし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
又、縦令たとひ老婆が背を向けて、立つて居ようとも、その向う側の座席の人達も、老婆に席を譲るべき責任を、忌避すべき筈のものではなかつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
縦令たとひ親父の名を汚す役に立ずと云はれても、なんでもはぢを忍んで主君の玉体を見届けるがちやうずるかと存じ候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
最初は、縦令たとひどんな理由があるにしろ、自分を捨てゝ、荘田に嫁がうとする瑠璃子が恨めしかつた。心を喰ひ裂くやうな烈しい嫉妬を感じた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)