筐底きょうてい)” の例文
ここを品よくいえば“いつか筐底きょうていの古反古になん成りけるを——”というわけなんです。けれど、別冊編集子はなかなか諦めない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて沈思黙考四日間の後私は黙々として筐底きょうてい深く蔵していた令嬢の日記と例の二枚の不可思議なるスケッチ板とを取り出した。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これらの引札類は今も好事家こうずか筐底きょうていに蔵されているが、当時も、藍泉、得知、篁村及び左文の諸老などは珍品を集めていた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
当時電気にならない唯一のレコード、——作品百一番のソナタの旧吹込レコードを私は今でも筐底きょうてい深く愛蔵している。
椿岳は一つの画を作るためには何枚も何枚も下画したえを描いたので、死後の筐底きょうていに残った無数の下画や粉本を見ても平素の細心の尋常でなかったのが解る。
わたしは何故久しく筐底きょうていの旧稿に筆をつぐ事ができなかったかを縷陳るちんして、わずかに一時のせめふさぐこととした。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこで例の原稿を筐底きょうていから取出して見てもらうと、差当さしあたりそれを出そうということになったが、逸早いちはやくもこうした美本となって世に出るようになったことにいては
「古琉球」改版に際して (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
これは、大事に筐底きょうてい深く蔵して置いたほうが、よかったのでは無かったかと、私は、あのお洒落しゃれいき紳士の兄のために、いまになって、そう思うのでありますが、当時は
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
約二年の間そのままにて筐底きょうていよこたはりしを、書肆しょしこいに応じて公けにする事となれり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先生の本旨ほんしは、右二氏の進退しんたいに関し多年来たねんらい心に釈然しゃくぜんたらざるものを記して輿論よろんただすため、時節じせつ見計みはからい世におおやけにするの考なりしも、爾来じらい今日に至るまで深く筐底きょうていして人に示さざりしに
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
しかし、そこにはまた相当の用心もあって、このまま両替しては、かえって世間の疑惑を引きやすいと思わるるものは、そのままで筐底きょうてい深くしまって置いて、後日の楽しみに残すこととしました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御免を蒙って其は私の筐底きょうていふかく蔵すことにいたしました。
一層筐底きょうてい深く蔵していたのであったが、さて私が久方ぶりで、長閑のどかなローン湾の風光をほしいままにした故郷のオバン市で休養の日を送っていた時であった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「とうに出来ておりまする。——が、まだあれを持てと、お声のないうちは、あれのる時節が参らぬものと、てまえの筐底きょうていにふかくしまい込んでおきました」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、わば筐底きょうてい深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏ひとまとめにして、いきなり単行本として出版したのである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もう一度筐底きょうていから取り出して、古人の心意気を味わってみるがよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ふかく筐底きょうていに秘めて、人にも示さず、翌年またあらたに一代の工夫と体験の精髄とをしるし、その年の末、ふたたび晩年に悟得ごとくした吹毛剣のことについて書き加えなどしていたが、翌年の春になると
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)