立番たちばん)” の例文
霊南坂れいなんざかを登る時、米国大使館の塀外を過ぎても、その頃には深夜立番たちばんしている巡査の姿を見るようなことはなかった。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だんだら模様の関門も変にぼやけた色を帯び、立番たちばんをしている兵隊の口髭が、眼よりずっと上の額の辺にくっついているようで、鼻はまるでなさそうに見えた。
いかさま博奕ばくち立番たちばんまでやって、トドのつまりが阿波くんだりまで食いつめて、真鍮鐺しんちゅうこじり梵天帯ぼんてんおびが、しょうに合っているとみえて、今じゃすっかりおとなしくなっているつもりですが
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
善三郎 あっしは見ませんでしたが、さッき来た婆と、口をきいていたっていうから、どうで東両国のこもりの外で、さあさあざっとご覧よご覧よとさえずってる、夜鷹の立番たちばんでしょう。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
測候所そくこうしよを過ぎて絶頂の信号所に達した。其処そこにはナポレオン帽をかぶつてカアキイ色の服を着けた英国の陸兵が五六人望遠鏡を手にして立番たちばんをして居る。郵便船がはひる度に号砲を打つのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何ごころなく聞に一人の男コレ彌兵衞さん然樣ならば今日は御立で御座るかと云ば彌兵衞ハイ此度このたびは私しが立番たちばんで御座い升最早もはや今夜子刻こゝのつには出立なれど丑刻頃やつごろには成ませうと言にをとこそれは/\御苦勞若々もし/\彌兵衞さん此節は道中で油斷ゆだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長吉はいつも巡査が立番たちばんしている左手の石橋いしばしから淡島あわしまさまの方までがずっと見透みとおされる四辻よつつじまで歩いて来て、通りがかりの人々が立止って眺めるままに、自分も何という事なく
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長吉ちやうきちはいつも巡査じゆんさ立番たちばんしてゐる左手の石橋いしばしから淡島あはしまさまのはうまでがずつと見透みとほされる四辻よつゝじまで歩いて来て、とほりがゝりの人々が立止たちどまつてながめるまゝに、自分もなんといふ事なく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)