真人間まにんげん)” の例文
旧字:眞人間
けれど、酔うほどに、かれらは、きょうまで覚えたことのない情熱にたぎりたてられていた。——真人間まにんげんにかえりたいという欲望であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「腕もなし、資本もなし、それで真人間まにんげんになろうというのはちっと無理だ、いま奉公に出ればと言って、その腕じゃあ誰も使い手はあるめえ」
金田君及び金田令夫人をもって充たされるであろう。吾輩は切に武右衛門君のために瞬時も早く自覚して真人間まにんげんになられん事を希望するのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あのおとこも、ついに牢屋ろうやへいれられてしまった。こんどは、すこしは、がさめるだろう。そして、真人間まにんげんになって、てきてくれればいいが……。」
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんなものと真人間まにんげんと一緒にされてたまるものかなんて、それからも随分激しい調子でいろいろおっしゃったんですよ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いや、不意に襲われると云うことがすでに不覚だよ。」と、忠一は笑って、「𤢖の如き者は一挙して全滅してしまうか、もなくばこれ教化きょうかして真人間まにんげんにするか、 ...
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴郎あなたはびっくりしましょうが、私の伯父おじと兄は、真人間まにんげんじゃありません、伯父と兄は、恐ろしい盗人ぬすっとでございます、船頭になって貴郎方をれて来て、殺してものをろうとしております
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
めては世間並せけんなみ真人間まにんげんにしなければ沼南の高誼こうぎに対して済まぬから、年長者の義務としても門生でも何でもなくても日頃親しく出入する由縁ゆかりから十分訓誡して目を覚まさしてやろうと思い
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何時いつか聞いた事がある、狂人きちがい真人間まにんげんは、ただ時間の長短だけのもので、風が立つと時々波が荒れるように、誰でもちょいちょいは狂気きちがいだけれど、直ぐ、ぎになって、のたりのたりかなで済む。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしそれを怠るような者があれば、その者は真人間まにんげんではない。
とある——初めて演説というものと、その周囲の光景とを見た者の眼には、真人間まにんげんの仕業とは見えなかったのでしょう。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ユダの悪魔あくまぶりにはキリストも持てあましたし、十二使徒しとの人々も顰蹙ひんしゅくして、あいつはとても、真人間まにんげんにはなりませんといったくらいだ——という話を
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怠るような者があれば、その者は真人間まにんげんではない
この二月ふたつきほど真人間まにんげんに返って、驚くほど堅気かたぎになり、真黒くなって家業に精を出し、和歌山へ行ったのも宿屋の実地調べで、これからますます家業へ身を入れようとした金蔵の心が
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「へえ。あんたの口癖からすと、この界隈かいわいには真人間まにんげんは現われないはずなんだが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)