ひゞ)” の例文
足袋たび穿かぬあしかふさめかはのやうにばり/\とひゞだらけにつてる。かれはまだらぬ茶釜ちやがまんでしきりにめし掻込かつこんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
奧さんの唇はいつもからびてひゞが入つてゐる。これはいつも頭から夜着を被つて寢るからである。奧さんは此家に來てから、博士の母君をあの人としか云はない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
みにくいひゞの手のように、カサカサに冬ざれていることは?……むかしながらにひかりのささない堂内には、天井から、むかしながらの千羽鶴のむれが瓔珞ようらくのように
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かじけ萎びて、硬ばつたり龜裂したりして居た人の皮膚は、輭らぎ潤ひて生氣を増し、瑞々しく若くなつて、ひゞ凍傷しもやけなども治り、筋肉は緊張し、血量は増加したるが如く見える。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何うかすると工場の歸りだとか謂ツて、鉛筆のしんこなで手を眞ツ黒にしながら、其を自慢にしてゐるやうなこともあツた。兩手共荒れてひゞの切たやうになツて、そしてカサ/\してゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
拭掃除ふきそうじを致しますから、手足はひゞが絶えません、朝働いて仕まってからお座敷へ出るような事ですから、世間の評が高うございます、此の母親おふくろはおさきばゞあと申しまして慾張よくばりの骨頂でございます
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
指の太い、ひゞだらけの、赤黒い不恰好な手が、忙がしさうに、細い眞鍮の火箸を動す。手巾ハンカチを欲しがつてる癖に……と考へると、私は其手巾を蒲團の中で、胸の上にシッカリ握つてる事に氣がついた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
山膚にひゞを入る。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
さうして豆腐とうふたびみづ刺込さしこむのがふるへるやうにみた。かさ/\に乾燥かわいたみづへつけるたびあかくなつた。ひゞがぴり/\といたんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
奧さんはからびてひゞの入つた唇を固く結んで、博士の顏をじつと見てゐる。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)