きみ)” の例文
九州を征服し、山陽山陰をき、正成、義貞に勝って、思うきみ御位みくらいかせ、身は大御所、大将軍とあがめられている栄位にある。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我がきみの怨敵たらんもの、いづくにかはた侍るべき、まこと我が皇の御敵おんあだたらんものの侍らば、痩せたる老法師の力ともしくは侍れども、御力を用ゐさせ玉ふまでもなく
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
常世島とこよしま国なし建てて、到り住み聞き見る人は、万世よろずよ寿いのちを延べつ、故事ふることに言ひつぎ来る、澄江すみのえの淵に釣せし、きみの民浦島の子が、あまに釣られ来りて、紫の雲たなびきて、時のまにゐて飛び行きて
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「さまで朝廷をおもんぜられる楠木殿が、持明院統のきみには弓を引かれますのか。まぎれなく、持明院統の前帝も、皇統のおひと方なるに」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深々しんしんと胸にも雪が降り積むようだ……。そして白々しい虚無がおれをたまらぬ淋しい子にひがませている。急に、父のきみへお会いしたくなったのだ。
「よく聞け。——この護良もりなが還俗げんぞくして、仏手ぶっしゅ干戈かんかを取ったのは、遊戯ではないのだぞ。そのほうらにも、父のきみにも、いっこうわけの分らんところがある」
上書は、こうをおすすめするこころでは書いたものだ。しかし、山上のきみにも御体面というものがある。わけて豪邁ごうまいなる後醍醐のきみ。不遜ふそんな文言はことをこわす。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この持明院統じみょういんとうきみは、さきに尊氏へたいして、尊氏がうた宣旨せんじを降下し、錦の旗をも与えていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっそ父のきみがうらめしい——といわれたという流布るふが巷間におこなわれたとしても奇異ではない。
自分の待ちかねている——いや絶望さえしかけている——持明院統のきみの院宣をどうしてもその日野殿のお手から奏請そうせいして欲しいのだ——ということを、この薬師丸へ、熱意をこめて
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北畠顕家あきいえが留守となった東北の乱脈さなどわけて想像に難くない。さらに思いが筑紫つくしに飛べばなおゾッとした。——彼のさぐり知るところでは、尊氏は、持明院統のきみ院宣いんぜんをにぎっている。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……ただただ憂いのみにござりまする。いまや尊氏の許には、持明院統じみょういんとうきみの院宣もひそかに降下されておること。——君と君との血みどろを、臣として、何で心なく見ておられましょうか」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)