白楽天はくらくてん)” の例文
白楽天はくらくてんが、玄宗皇帝げんそうこうてい楊貴妃ようきひとの情事を歌った長恨歌ちょうごんかの一節は、そのままわが平安朝の貴族心理をいっているような趣きがある。
ただ這入はいる度に考え出すのは、白楽天はくらくてん温泉おんせん水滑みずなめらかにして洗凝脂ぎょうしをあらうと云う句だけである。温泉と云う名を聞けば必ずこの句にあらわれたような愉快な気持になる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そういうものではありません……では、わたしがひとつ、白楽天はくらくてんの歌をお前に教えて上げましょう」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わしは和子に此のからうたを教えて上げる。此れは唐土もろこし白楽天はくらくてんと云う人の作ったもので、子供にはむずかし過ぎて意味が分らないであろうが、そんなことはどうでもよい。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この紫陽花は、中国人でもそれが何であるか、その実物を知っていないほど不明な植物で、ただ中国の白楽天はくらくてんの詩集に、わずかにその詩がっているにすぎないものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
は有名な白楽天はくらくてん
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
これは白楽天はくらくてんの詩「琵琶行びわこう」のはじめの句だが、いまの宋江そうこうの身は、そんな哀婉あいえんなる旅情の懐古にひたりうるどころではなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ初めは古人の作からはじめて、追々おいおいは同人の創作なんかもやるつもりです」「古人の作というと白楽天はくらくてん琵琶行びわこうのようなものででもあるんですか」「いいえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして吟じながらふとかんがえたことというのはこの蘆荻ろてきいしげるあたりにもかつては白楽天はくらくてんの琵琶行に似たような情景がいくたびか演ぜられたであろうという一事であった。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白楽天はくらくてんのことば——行路カウロノ難ハ山ニモアラズ水ニシモアラズ、タダ人情反覆ハンプクノ間ニリ——という事実を人々はのあたりに見たことだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この掲陽嶺けいようれいを越えれば、まもなく道はかの白楽天はくらくてんの“琵琶行びわこう”でも有名な潯陽江じんようこうの街を見る。——そして水と空なる雄大な黄色い流れは、いわずもがな、揚子江ようすこうの大河であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの白楽天はくらくてんの長詩「長恨歌」の中で、玄宗皇帝が術者の方師ほうしをして、夢に、亡き楊貴妃ようきひの居るところを求めさせるなどという着想も、民話的な道教信仰を詩化したものといってよい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この潯陽じんよう城の船着きは、むかし白楽天はくらくてんとかいう詩人うたびとが、琵琶行びわこうっていう有名な詩をのこした跡だっていうんで、琵琶亭びわていがあるし、それから船で琵琶をいて、旅のお客さまにとぎをするおんながいるんでさ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)