らい)” の例文
小川さんは完全ならい療養所の先生であると私は信じている。完全な者はそう幾人もない。小川さんは日本における稀有な存在である。
小島の春:01 序 (新字新仮名) / 高野六郎(著)
その次はすっかり変って般若はんにゃの面が小く見えた。それが消えると、らい病の、頬のふくれた、眼をいだような、気味の悪い顔が出た。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
わしは早速試みて見た。長江美作みまさかが気の毒にも、らいを病んで命旦夕たんせき、そこで一粒を投じてやった。ところがどうだ。ところがどうだ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伯牛はくぎゅうらいを病んで危篤に陥った。先師は彼をその家に見舞われ、窓から彼の手をとって永訣された。そして嘆いていわれた。——
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
クリストは一時代の社会的約束を蹂躙じうりんすることを顧みなかつた。(売笑婦や税吏みつぎとりらい病人はいつも彼の話し相手である。)
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし昔は人のこの病を恐るること、ろうを恐れ、がんを恐れ、らいを恐るるよりも甚だしく、その流行のさかんなるに当っては、社会は一種のパニックに襲われた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これはらいをやむ人の前世のごうみずから世に告ぐる、むごき仕打ちなりとシャロットの女は知るすべもあらぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は十六日間責め通されてなお改宗をがえんじないのだ。彼の全身はことごと腐爛ふらんし、口も眼も鼻もらい患者のようにただれ、彼より発するえ難い悪臭が恐ろしく鼻をつく。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
墓地に着くやいなや、らい病らしい、鎌を手にした少年が陰険な目付きでじろじろ睨んで通った。冷やりとした。数多き墓の中、かれこれと探って、ついに博士の墓を発見した。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それは、信者の催眠中、らいに似た感覚を暗示する事で、それがために、白羽の矢を立てられた信者は、身も世もあらぬ恐怖に駆られるが、そこが、教主くらの悪狡わるがしこいつけ目だった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ともかくも日本妖怪の味は概して、生々とした、病的感、癈頽はいたいした生きものの感じを持つ、或るものはらい病を思い出すように鼻などがなくつるりとしている。これは全くきみ悪い感じである。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
あるいは、何かいやな病にかかった、たとえばらい病とか痴呆症とか、そんなものになったと云ってもいい。彼女はたまらなくなって、亭主から逃げ出して、名前をかえて英国に帰って来たんだ。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
(時々むずかしい事をいいます。)気違が何や……らいでも治るがに。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは彼の持物であるが、彼のおもわくを見るとあんまりいいものでもないらしく、彼は「らい」という言葉を嫌って一切「らい」に近いおんまでも嫌った。あとではそれをしひろめて「りょう」もいけない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼はおりおりこの村に物貰いにやって来るらい病患者の顔を思い出した。そして、どんなに暑苦しくても繃帯を巻いている方がいいとさえ思った。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
灰色の繻子しゅす酷似こくじした腹、黒い南京玉ナンキンだまを想わせる眼、それかららいを病んだような、醜い節々ふしぶしかたまった脚、——蜘蛛はほとんど「悪」それ自身のように
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
醜いらいのようにひしゃげつぶれているのでした。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
操を破られながら、その上にもいやしめられていると云う事が、丁度らいを病んだ犬のように、憎まれながらもさいなまれていると云う事が、何よりも私には苦しかった。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)