男爵だんしゃく)” の例文
トム公——千坂富麿が大隈伯のたずねている千坂男爵だんしゃくのむすめの子にちがいないと囁かれて、保科署長はびっくりしてしまった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジョージ一世御感のあまり、近くに伺候するキルマンセッグ男爵だんしゃくを呼んで、「あれはだれが作り、誰が指揮しているのじゃ」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
外務省に出ていらっしゃる小山男爵だんしゃく。その次の方が、洋画家の永島龍太さん。の次の方が、帝大の文科の三宅さん、作家志望でいらっしゃる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と云う非難が多かったらしい。現に商業会議所会頭某男爵だんしゃくのごときは大体かみのような意見と共に、蟹の猿を殺したのも多少は流行の危険思想にかぶれたのであろうと論断した。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
カイロ男爵だんしゃくだって早く上等じょうとうきぬのフロックをて明るいとこへびだすがいいでしょう。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もとは南部男爵だんしゃく家の鷹匠たかじょうなり。町の人綽名あだなして鳥御前とりごぜんという。早池峯、六角牛の木や石や、すべてその形状と在処ありどころとを知れり。年取りてのち茸採きのことりにとて一人のつれとともに出でたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
股野重郎は元男爵だんしゃくを売りものにしている一種の高利貸こうりかしであった。戦争が終ったとき一応財産をなくしたが、土地と株券が少しばかり残っていたのが、値上がりして相当の額になった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とびらのまえでは兵隊へいたいたちが行進こうしんして、ラッパをふいたり、大だいこや小だいこをうちならしていました。お城のなかでは、男爵だんしゃく伯爵はくしゃく公爵こうしゃくが、家来けらいとしていったりきたりしていました。
ことなるかたに心めたまふものかな。」といひて軽くわが肩をちし長き八字髭はちじひげ明色ブロンドなる少年士官は、おなじ大隊の本部につけられたる中尉ちゅういにて、男爵だんしゃくフォン・メエルハイムといふ人なり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昔はうちの舞踏会といやあ、将軍さまだの男爵だんしゃくだの提督閣下だのが踊りに来なすったもんだが、それが今じゃ、郵便のお役人だの駅長だのを迎えにやって、それさえいい顔をして来やしない。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
前回かりに壮夫わかものといえるは、海軍少尉男爵だんしゃく川島武男かわしまたけおと呼ばれ、このたび良媒ありて陸軍中将子爵片岡毅かたおかきとて名は海内かいだいに震える将軍の長女浪子なみことめでたく合卺ごうきんの式をげしは、つい先月の事にて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あわれな男爵だんしゃくの境遇は、なんと痛ましいものであったろう。子煩悩こぼんのうな父親として、また偉大なるカッツェンエレンボーゲン家の一員として、なんと胸の張りさけるような苦しい立場であったろう。
それは毎年この避暑地に来る或る有名な男爵だんしゃくのお嬢さんであった。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「まあ、ようこそ。男爵だんしゃくさま。——」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夕暮になって、瑠璃子の父の老男爵だんしゃくが馳け付けた。瑠璃子の近来の行状を快く思ってはいなかった男爵は、その娘と一年近くも会っていなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
千坂男爵だんしゃくは、上杉家の支藩で、血統も正しい、両親も厳格であるし、兄弟たちも、それぞれ立派に社会に出ている。その末娘じゃから無論教養も十分、性格もまちがいないものと信じて、世話を
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フォン・ランドショート男爵だんしゃくの城が立っていた。
青年の横死は、東京の各新聞にって、可なりくわしく伝えられた。青年が、信一郎の想像した通り青木男爵だんしゃくの長子であったことが、それに依って証明された。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)