独語ひとりご)” の例文
旧字:獨語
「息をしだしたな、これで暫く来んわい。」と平七は独語ひとりごつて、平三に背を向けて立つたまゝ、矢張りぢつと網の中を見つめて居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
独語ひとりごつやうに言ひて、満枝はいよいよ寄添ひつ。貫一はこらへかねて力任せにうんと曳けば、手は離れずして、女の体のみ倒れかかりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
独語ひとりごつところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚うすぎたな衣服なり髪垢ふけだらけの頭したるが、裏口からのぞきこみながら、おつつぶれた声でぶ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
老いたる侍 (刀の血を拭ひ、鞘に納めながら、四下の人は眼にも入らざるが如く、つぶつぶと独語ひとりごつ。)……御先祖ごせんぞへの申訳ぢや……御、御
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
疲れたように老博士は眼を閉じていたが、その村長の問いには直接の返事を与えないで、人に話すともなく独語ひとりごつとも付かずこういうことを言い出した。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして夜着にかけた洗い立てのキャリコの裏の冷え冷えするのをふくよかなおとがいに感じながら心の中で独語ひとりごちた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
独語ひとりごちながら、わざわざ人を呼ぶほどのこともないと、静かに夜着をはねて起きあがったが。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「犯人ってやつは独創的な芸術家だ。探偵はただ批評家であるのみだ」彼は苦笑しながら独語ひとりごちた。彼はゆるゆると、彼のコーヒー茶碗を口につけ、今度は急にそれをおろした。
『むゝ、必定きつと市村さんだ。』と丑松は独語ひとりごちた。話の様子では確かに其らしいのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「酔興な!」と馭者はその愚につばするがごとく独語ひとりごちぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独語ひとりごった姉の言葉に、俊子は沖の方を見ながら答えた。
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「貞世がいるばかりで自分は人殺しもしないでこうしていられるのだ」と葉子は心の中で独語ひとりごちた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「矢が、これ、折れてやがる。中ほどからぽっきり——はてな。」と独語ひとりごちながら、その矢をぐいと引抜いた。わりに短い。と見ていると、矢羽の下に、勧進撚かんじんよりが結んである。
宮は聞えよがしに独語ひとりごちて、そのたがへるをいぶかるやうにもてなしつつ又其方そなた打目戍うちまもれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、独語ひとりごつともなく、私に話し掛けるともなく恍惚うっとりとしたように言い出すのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
かく独語ひとりごちて、太夫はすごすご木戸を入りぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ややしばらく沈黙した後に、当惑しきったようにさびしく岡は独語ひとりごちてまた黙ってしまった。岡はどんなにさびしそうな時でもなかなか泣かなかった。それが彼をいっそうさびしく見せた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こう弥生が、あやうく口に出して独語ひとりごとうとしたとき
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
直行は舌を吐きて独語ひとりごちぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
独語ひとりごちつつその前にさしかかった時だった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)