独寝ひとりね)” の例文
旧字:獨寢
少くとも随筆「独寝ひとりね」の中に男子一生の学問をも傾城の湯巻に換へんと言つた通人の面目のあることだけは兎も角も事実と言はなければならぬ。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつもわが独寝ひとりね臥床ふしど寂しく、愛らしき、小さき獣にうまきもの与えて、寝ながらそのくらうを待つに、一室ひとまの内より、「あおよ、」「すがわらよ。」など伯母上
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父は困った顔をしていたが、併し其も一の事で、其中そのうち小狗こいぬ独寝ひとりねに慣れて、夜も啼かなくなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
丁度ちょうどその時刻のすこし前に給仕長の圭さんが出勤して来て、階下のコックべや独寝ひとりねをしていた吉公をたたき起すと、その勢いで三階の娘子軍の寝室までかけ上ったところ
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今夜は美しいお前のはだにも触れずに独寝ひとりねしたが、それでも決して心がわりをするようなことはないのだ、今夜は故障があってついお前の処に行かれず独りで寝てしまったが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
読んでしまった大野は、竹が机のそばへ出して置いた雪洞ぼんぼりに火を附けて、それを持って、ランプを吹き消して起った。これから独寝ひとりねの冷たい床に這入はいってどんな夢を見ることやら。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さすがに泣き腫らした眼から鼻へ、いかにも巧者な筋が通っているのを、藤吉は素早く看て取った。帰らぬ良人を待ち侘びて独寝ひとりねを辿ったものか——部屋はこぢんまり片づいていた。
くにと申す女中がございまして、器量人並にすぐれ、こと起居周旋たちいとりまわし如才じょさいなければ、殿様にも独寝ひとりねねや淋しいところから早晩いつか此のお國にお手がつき、お國は到頭とうとうめかけとなり済しましたが
それと同時に悪魔が自分に囁くやうに思はれた。「独寝ひとりねの床は矢張墓だ、虚偽だ」
蚊幮かやの外に小さく燃えているランプの光で、独寝ひとりねねやが寂しく見えている。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)