煖炉ストーブ)” の例文
旧字:煖爐
薄暗い食堂の戸を開けると、主婦がたった一人煖炉ストーブの横に茶器をひかえてすわっていた。石炭をもやしてくれたので、幾分か陽気な感じがした。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右手が勘定台カウンターで、その上の格子から女中の髪に揷した白い花の簪が見える。客が非常に少かった。私は室の奥に据えられた煖炉ストーブに火が焚かれたのを見たことがない。
蠱惑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「どうぞ此方こちらへ」と案内した、導かれて二階へ上ると、煖炉ストーブさかんいていたので、ムッとする程あったかい。煖炉ストーブの前には三人、他の三人は少し離れて椅子に寄っている。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
広漠とした広間ホールの中で、私はひとり麦酒ビールを飲んでた。だれも外に客がなく、物の動く影さへもない。煖炉ストーブは明るく燃え、ドアの厚い硝子ガラスを通して、晩秋の光がわびしくしてた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
こちらの東側の半分を埋めていた図書文献の類を全部、今までの教授室に移して、その跡を御覧の通り、御自分の居間に改造してあのような美事な煖炉ストーブまで取付けられたものです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つまり、水を洗手台から導いて、階段を落下させたという目的は、きわめて推察に容易ではあるが、次の煖炉ストーブの点火という点になると、その意図には皆目見当がつかないのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これからはかうして部屋に籠つて煖炉ストーブのそばにゐるのが一等好いわね、あなたは幸福だわ。あたしもこれからはチヨイチヨイ来て——あなたお書きなさいな、あたしこゝで静かにあたつてゐるわ。
煖炉ストーブの前で、ラヴィニアがまだしゃべっている所へ、戸が開いて、セエラがロッティと一緒に入って来ました。ロッティはまるで小犬のように、セエラの行く所へはどこにでもついて行くのでした。
自分は暖かい煖炉ストーブと、海老茶えびちゃ繻子しゅす刺繍ぬいとりと、安楽椅子と、快活なK君の旅行談を予想して、勇んで、門を入って、階段をあがるように敲子ノッカーをとんとんと打った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「愉快々々、談愈々いよいよ佳境にって来たぞ、それからッ?」と若い松木は椅子を煖炉ストーブの方へ引寄た。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし、その時熊城が、扉の側にある点滅器をひねり、またその下の電気煖炉ストーブに眼を止めて、差込みプラグを引き抜いたので、やがて濛気と高温が退散するにつれ、室の全貌がようやく明らかになった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何よりうれしいのは断えず煖炉ストーブに火をいて、惜気おしげもなく光った石炭をくずしている事である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから馬鈴薯には懲々こりごりしましたというんです。何でも今は実際主義で、金が取れて美味うまいものが喰えて、こうやって諸君と煖炉ストーブにあたって酒を飲んで、勝手な熱を吹き合う、腹がすいたら牛肉を
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
とそれから煖炉ストーブの前で、法水は紅いおきに手をかざしながら続けた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しばらく煖炉ストーブはた煙草たばこを吹かして待っている間に、宗助は自分と関係のない大きな世間の活動に否応なしにき込まれて、やむを得ず年を越さなければならない人のごとくに感じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)