焼餅やきもち)” の例文
御茶の子の材料は区々まちまちである。なべに残った前夜の飯の余りを食う場合もあるが、東日本では普通そのために焼餅やきもちというものがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
リヽーに対する焼餅やきもち?———と、一応思ひついてみたが、それも腑に落ちないと云ふのは、もと/\自分も猫が好きだつた筈なのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あなた。随分焼餅やきもちやきねえ。」と君江はかえって驚いたように鉄子の顔を見返して、「いいじゃないの。奥様なら奥様で。気にしないだって。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
の中のかわず——おまえなんかに天下のことがわかるものか、この島をでたら、分相応ぶんそうおうに、人の荷物にもつでもかついで、その駄賃だちん焼餅やきもちでもほおばッておれよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と黒板にかいてある。さっきは別に腹も立たなかったが今度はしゃくさわった。冗談じょうだんも度を過ごせばいたずらだ。焼餅やきもち黒焦くろこげのようなものでだれめ手はない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嫉妬は婦人の敗徳なりと教うれば、下流社会も之を聞習い、焼餅やきもちは女の恥など唱えて、敢て自から結婚契約の権利を放棄して自から苦鬱の淵に沈むのみならず
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしの母親は、気の毒な生活をしていた。しょっちゅう興奮したり、焼餅やきもちをやいたり、ぷりぷりしたりしていたのだが——ただし父の面前でやったわけではない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そのように薄情はくじょうにするなら、御息女のことを、世間にいいふらす——と、あたくしが、焼餅やきもちこうじて申したのがきっかけで、あんな馬鹿らしいことになったのでございました
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
男でも女でも同じように、うそはいうし、欲は深いし、焼餅やきもちは焼くし、己惚うぬぼれは強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒どろぼうはするし、手のつけようのない毛だものなのだよ……
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あなたこの私に慇懃いんぎんをお寄せ下さいますでしょうねえ。宅は焼餅やきもちやきですの、あのオセロなんですのよ。でも私たち、宅に何一つどられないようにうまく立ちまわりましょうねえ」
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なんだかそれまでは心の内を隠していたのが、もう向うも身の上が極まったのだから、構わないとでも思ったらしく見えたのね。それからどうだっけ。わたしは焼餅やきもちなんぞは焼かなかったわ。
とも子 焼餅やきもちやき。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
リリーに対する焼餅やきもち?———と、一応思いついてみたが、それもに落ちないとうのは、もともと自分も猫が好きだった筈なのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが、きのうあたりから、あの蛾次郎がじろうが、団子だんご焼餅やきもちなどをたずさえて、チョクチョク白旗の森にすがたを見せ、竹童のごきげんとりをやりだしたのも奇妙きみょうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是を湯に入れ汁に投ずれば、単純なる我々の煮団子にだんごであり、なべで焼けば普通のオヤキすなわち焼餅やきもちとなるのだが、形をこしらえるには生のままの時に限るので、それでしとぎ御姿おすがたと謂ったのかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
リヽーに対する焼餅やきもち?———と、一応思ひついてみたが、それもに落ちないと云ふのは、もと/\自分も猫が好きだつた筈なのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半助はにが笑いして、いくらかの小銭こぜにをだしてやった。それをもらうと、蛾次郎は人ごみをかきわけてふところいッぱい焼餅やきもちを買いもとめ、ムシャムシャほおばりながら歩きだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わて猫みたいなもん相手にして焼餅やきもち焼くのんと違ひまつせ。けど、鰺の二杯酢わては嫌ひや云ふのんに、僕好きやよつてにこしらへてほしい云ひなはつたやろ。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大方おおかた蘆屋時代には、最初に変な反感を抱いてしまったので、この猫の美点が眼に這入らなかったのであろうが、それと云うのも、焼餅やきもちがあったからなのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ありていに云うと、そこへ品子の手紙が舞い込んで来たことは、彼女の焼餅やきもちを一層あおったようでもあるが、一面には又、それを爆発の一歩手前で抑制すると云う働きをした。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どんな事あっても二度と別れるいうこと出来でけへん気持になってましたよって、分ってながら分らん風して、おなかの中ではなんぼ焼餅やきもち焼いてたかて、「綿貫」の「わ」の字も口い出さんと
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)