無体むたい)” の例文
旧字:無體
「女とあなどって無体むたいしやると用捨は致しませぬぞ、痩せても枯れても正木作左衛門の娘じゃ、けがらわしい、誰がお汝等ことらの酌などしようぞ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まぶたをべつかつこうした小僧もあり、平身低頭の老番頭、そのかげから、昔、かけ先きの間違ひで無体むたいに解雇した中年の男のうらめしさうな顔も出る。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
若い私には無体むたいにそいつがしゃくにさわった。私はねらう相手から、覘うものを捲きあげてしまわなければ、死んでも銀座には帰らないとはらを決めているのだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女達はその傍若無人ぼうじゃくぶじんに少しの表立った抗議もせず、身をずらせて、この無体むたいな湯の飛沫しぶきから逃れながら、なかば、惚れぼれとして、ミチの白い肉体を見上げる。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
えい! 何というおおせだ。この忠直が御先おさきを所望してあったを、お許されもせいで、左様な無体むたいを仰せらるる。所詮は、忠直に死ね! というお祖父様の謎じゃ。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と病人は、無体むたいに引きられながら、気のない声で返事をするうちに、見たいも、見たくないもありゃしない。たちまち窓の障子しょうじかどまでしつけられてしまった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金蔵はお豊の胸倉むなぐらをはなして、その手で滝のように落ちる自分の涙を拭きました。無体むたい恋慕れんぼながら真剣である、怖ろしさの極みであるけれども、その心根こころねを察してやれば不憫ふびんでもある。
無体むたいなことを! 刀にかけても奪還せねば! と栄三郎が面色をかえてつめよった時、見ると、相手のつれらしい侍が急ぎ足に近づいてくるので、残念ながらこのいわくありげな二人に挟まれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「静まれ、無体むたいなことをもう。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「これは、ご無体むたい!」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無体むたいしゃくにさわった。背中に大きなものを背負っているから駆け出すわけにもいかない。ぐずぐずしていりゃあの若い奴に締められちまう。貫一の決心はついた。
「あッ。お……叔父御。なんだってこの天蔵を! ……。いくら叔父御でも、無体むたいだッ。余りといえば」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それだ。その二人を、牢人体ろうにんていの男が、無体むたいに連れ去ったというが、その行く先を知るまいか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご、ご無体むたいな!」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)