焚附たきつけ)” の例文
「今までの竹の胡麻穂だと燐寸一本で、火が一面にひろがるからね、まるで家の周囲に燃えやすい焚附たきつけを置いていたようなものなんだ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
杉籬のはさみすてが焚附たきつけになり、落葉の掃き寄せが腐って肥料になるも、皆時の賜物たまものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……こがらしかれぬまへに、雪国ゆきぐにゆき不意ふいて、のまゝ焚附たきつけにもらずにのこつた、ふゆうちは、真白まつしろ寐床ねどこもぐつて、立身たちみでぬく/\とごしたあとを、草枕くさまくら寐込ねこんで
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……寝つけない夜床の上で、彼はよく茫然と終末の日の予感におののいた。焚附たきつけを作るために、彼は朽木におのをあてたことがある。すると無数の羽根蟻はねあり足許あしもとの地面をい廻った。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
インフレーションによって人間の社会的良心さえも、その焚附たきつけにしてしまっている竈の、ポッカリと大きくあいた口である。又、いくら洗っても清潔になりきらないおむつの長い列である。
もう焚附たきつけがぱちぱち云って、ほのおの舌が閃きました。
二十六、七の若いものに、はたけいじりは第一無理だし、南瓜のつる焚附たきつけにもならぬ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ジャンと来て見ろ、全市かわらは数えるほど、板葺屋根いたぶきやねが半月の上も照込んで、焚附たきつけ同様。——何と私等が高台の町では、時ならぬ水切みずぎれがしていようという場合ではないか。土の底まで焼抜やきぬけるぞ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)