しづく)” の例文
酒売りの女が私たちの声を聞いて売りつけに来たのです。この酒は棕櫚の幹に切り傷をこしらへて、そこかられるしづくでつくるやつなのです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
しづくだに震ひ動かずしてわが身に殘る血はあらじ、昔の焔の名殘をば我今知るとヴィルジリオにいはんとせしに 四六—四八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しづくの垂れる頭髮、堅く食ひしばつた口、彼等は異樣な樣子をしてゐた。そして深い原始的な野性の姿をうかばせてゐた。
乞食は髪の水を切つたり、顔のしづくを拭つたりしながら、小声に猫の名前を呼んだ。猫はその声に聞き覚えがあるのか、平めてゐた耳をもとに戻した。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日きょうはまだ一しづくもやらねえんでね。あの医者は馬鹿だよ、ほんとに。もしラムを少しも飲まなけれぁ、ジム、己は酒精アルコール中毒が起るよ。もう少しは起ってるのだ。
しづく、たつた一滴、私の針の先へ紅宝玉ルビイをたつた一滴……貴方はまだ私を愛してゐるのですから、私はまだ死なれません……あゝ可哀さうに、私は美しい血を
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
少し遅れて、また二人、まだしづくのたれるボロぞうきんをさげて、追ひつきました。
掃除当番 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
憂鬱の長い柄から、雨がしとしととしづくをしてゐる。眞黒の大きな洋傘!
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
しめつた自分の庭のしづくのたれるオレンジの木の下を、そして濡れた柘榴ざくろの木やパインアプルの間を歩く間に、熱帶の輝かしい夜明よあけが私のまはりにかゞやく間に、私は次のやうに考へを進めたのです
草原にまだしづくする格納庫日は直射たださして白雨しらさめ過ぎぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひたひには、露のしづくを感じてた。
ひさしを振り落つるしづくの——
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
蛇口のしづくは、つと光り!
汝何ぞ我物を奪ふや、唯一しづくの涙の爲に彼我を離れ、汝彼の不朽の物を持行くとも我はその殘りをばわが心のまゝにあしらはんといふ —一〇八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのしづくほどな徳利の酒さへ、「れぷろぼす」は大きによろこんだけしきで、頭の中に巣食うた四十雀にも、杣たちのみ残いた飯をばらまいてとらせながら、大あぐらをかいて申したは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鹽つぱいしづくを拂ひのけると、せはしく朝食の支度に取りかゝつた。
すんだしづくをたらしてゐる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
そは片側かたがはには、全世界にはびこる罪を一しづくまた一滴、目より注ぎいだす民、あまりにふち近くゐたればなり 七—九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そこで、彼は飲んでしまつた後の椀をしげしげと眺めながら、うすい口髭についてゐるしづくを、掌で拭いて誰に云ふともなく、「何時になつたら、これに飽ける事かのう」と、かう云つた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
口髭には、今飲んだ酒が、しづくになつて、くつついてゐる。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は傘のしづくを切り切り、腹立たしさうにつけ加へた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)