したたり)” の例文
今、この瞳に宿れるしずくは、母君の御情おんなさけの露を取次ぎ参らする、したたりぞ、とたもとを傾け、差寄せて、差俯さしうつむき、はらはらと落涙して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一に、空中には常に、眼には見えない水蒸気があるといふ事、第二に、此の水蒸気を冷やすと、眼に見える霧となつてやがて水のしたたりとなるといふ事だ。
代助はそのにおいごうと思って、乱れる葉の中に鼻を突っ込んだ。縁側のしたたりはそのままにして置いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾は聴く、夜の静寂しづけきに、したたりの落つるをはた、落つるを。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
もゆしたたり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其のどちらかの虫が怒つた時には、その螫の端に小さな滴が真珠のやうになつて見える。それが襲撃の準備なのだ。それは毒のしたたりで、蠍はそれを傷の中に滲ますのだ。
代助は返事もずに書斎へ引き返した。縁側に垂れた君子蘭の緑のしたたりがどろどろになって、干上り掛っていた。代助はわざと、書斎と座敷の仕切を立て切って、一人へやのうちへ這入った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱あるものは、楊柳ようりゅうの露のしたたりを吸うであろう。恋するものは、優柔しなやか御手みてすがりもしよう。御胸おんむねにもいだかれよう。はた迷える人は、緑のいらかあけ玉垣たまがき、金銀の柱、朱欄干しゅらんかん瑪瑙めのうきざはし花唐戸はなからど
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貞丈雑記ていぢやうざつきに、湯を召さするに常のきぬの上に白き生絹きぎぬそのしろき生絹のを、湯巻ともいまきともいふなり。こは湯のしたたりの飛びて衣を濡すを防ぐべきための衣なり、とあり。俗に婦人の腰に纏ふ処の
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)