滄海そうかい)” の例文
滄海そうかい波遥なる彼邦かのくにに吾が児を放ち遣ることは、明日をも知らぬ老いた母に取っては気の楽なことでは無かった。然し母も流石さすがに寂照の母であった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
残怨日高ざんえんひだか夜嵐よあらしといったようなおもむきを、夜の滄海そうかいの上で、不意に見せられた時には、獰猛どうもうなる海女あまといえども、怖れをなして逃げ去るのは当然でしょう。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この国家の大事に際しては、びょうたる滄海そうかいの一ぞく自家われ川島武男が一身の死活浮沈、なんぞ問うに足らんや。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この蛇頭に大地を戴く。『山海経』に〈崑崙こんろん山西北に山あり、周囲三万里、巨蛇これを繞り三周するを得、蛇ために長九万里、蛇この上におり、滄海そうかいに飲食す〉。
見よ、世界の機運の滔々とうとうとして移りゆくことを。語にいう、千渓万壑せんけいばんがく滄海そうかいに帰し、四海八蛮帝都に朝すと。古今を考えかつ東西をる、また読書人の一楽というべし。ああ
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
此地眺望最も秀美、東は滄海そうかい漫々まんまんとして、旭日きょくじつ房総ぼうそうの山に掛るあり、南は玉川たまがわ混々こんこんとして清流の富峰ふほうの雪に映ずるあり、西は海老取川えびとりがわを隔て云々、大層賞めて書いてある。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
もし、そのいわゆる元素はなにより成るを問わば、けだし、だれもこれに答うるものなかるべし。これ、すなわち一小怪物なり。人身の大なる、これを国土に比すれば、滄海そうかいの一粟にも及ばず。
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
われは夢む、滄海そうかいそらの色、あはれ深き入日の影を
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ちがうよ、あれは桑田そうでん変じて滄海そうかいとなるだよ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
したがって尾閭禁ぜず滄海そうかいきた齶蠅がくよう連は更なり、いまだ二葉の若衆よりかわやに杖つくじいさんまでも、名を一戦の門に留めんと志すやから、皆争うてこれを求めたので
びょうたる滄海そうかい一粟いちぞく、わが生の須臾しゅゆなるを悲しみ、と古人は歌うが、わが生を悲しましむることに於ては、海よりも山だと白雲は想う。海は無限を教えて及びなきことをささやく。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いはンヤ吾トなんぢ江渚こうしよノホトリニ漁樵ぎよしようシ、魚鰕ぎよかつれトシ、麋鹿びろくヲ友トシ、一葉ノ扁舟へんしゆうニ駕シ、匏樽ほうそんヲ挙ゲテ以テ相属あひしよくス、蜉蝣ふゆうヲ天地ニ寄ス、びようタル滄海そうかい一粟いちぞく、吾ガ生ノ須臾しゆゆナルヲかなし
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
滄海そうかいのあなたに出船入船のすべてにとって、闇夜の指針となるべき功徳くどく
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
滄海得壮士(滄海そうかいに壮士を
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)