溢出はみだ)” の例文
むき身しぼり襦袢じゅばん大肌脱おおはだぬぎになっていて、綿八丈の襟の左右へはだけた毛だらけの胸の下から、ひものついた大蝦蟇口おおがまぐち溢出はみださせて、揉んでいる。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と太い声で、右の洋冊ようしょを横縦に。その鉄壺眼かなつぼまなこで……無論読めない。貫目を引きつつ、膝のめりやすを溢出はみださせて
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
濡れに寄るにも、袖によるにも、洋杖ステッキ溢出はみだしますから、くだん牛蒡丸抜安ごぼうまるぬきやすです。それ、ばかされていましょう。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あぶない、たな破鍋われなべちかゝるごとく、あまつさへべた/\とくづれて、薄汚うすよごれた紀州きしうネルをひざから溢出はみださせたまゝ、……あゝ……あゝつた!……男振をとこぶり音羽屋おとはや特註とくちう五代目ごだいめ)の意氣いき
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほころびて、たもとさきでやっとつながる、ぐたりと下へかさねた、どくどく重そうな白絣しろがすりの浴衣の溢出はみだす、汚れてえた綿入のだらけた袖口へ、右の手を、手首を曲げて、肩を落して突込つっこんだのは
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひじに南京玉のピカピカしたオペラバックと云う奴を釣って、溢出はみだしそうなちちおさえて、その片手を——振るのではない、洋傘こうもりを投げたはずみがついて、惰力が留まらなかったものと考えられます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁側でも呻唸うなり出す——数百すひゃくの虫が一斉いっときに離座敷を引包んだようでしょう、……これで、どさりと音でもすると、天井から血みどろの片腕が落ちるか、ひしゃげた胴腹が、畳の合目あわせめから溢出はみだそう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)