渉猟しょうりょう)” の例文
よって此間じゅうよりギボン、モンセン、スミス等諸家の著述を渉猟しょうりょう致し居候おりそうらえどもいまだに発見の端緒たんしょをも見出みいだし得ざるは残念の至に存候ぞんじそろ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから日本人の書いたドイツ文や、日本人のドイツ語から訳した国文を渉猟しょうりょうして見たが、どれもどれも誤謬ごびゅうだらけである。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
の一文をそうするに当っても、何一つとして先人の手に成った権威ある文献を渉猟しょうりょうしてはいないため、一般の定説や
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
和漢洋の歴史いずれなりとも汝の意に任せて渉猟しょうりょうし見よ、貧苦における汝の友人は多きこと蒼天の星の数のごとし。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
探せばあるに違いないのだが、私などは十八世紀以前の文学となると、きわめて縁遠く、渉猟しょうりょうの力も機会もないので、しばらくあきらめているというにすぎない。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
単にこの一語の応用を正確にするためにも、なお上古の文籍を渉猟しょうりょうしていなければならなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一日、古書を渉猟しょうりょう中、ふと、ある疑いにとらわれた。今迄、全然考えたこともなかった疑だけに、初めは、邪神セットの誘惑ではないかと思って、それをしりぞけようとした。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)
自分は、数年来この二つの疑問に対して、何等の手がかりをも得ずに、空しく東西の古文書こもんじょ渉猟しょうりょうしていた。が、「さまよえる猶太人」を取扱った文献の数は、非常に多い。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しかしどうかまげてお話しください。あなたはむろん、古書はふかくご渉猟しょうりょうでしょうな。」
そこで、種々いろいろと小説本を渉猟しょうりょうして、ついに当代の大家の作に及んで見ると、流石さすがは明治の小説家だ、性慾の発展の描写がたくみに人生観などで潤色じゅんしょくされてあって、趣味がある、面白い。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
作者として抜群なのみでなく、『万葉』『古今』等の古典的歌集はもちろんのこと、そのほかに物語類、歴史類にもかなり通暁し、また漢籍の渉猟しょうりょうにおいても浅からざるものがあった。
事実、先生はよく葛岡と一緒になって林中を渉猟しょうりょうしていることがあります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
アナトール・ル・ブラの「ブリトン伝説学」やガウルドの「オールド・ニック」までも渉猟しょうりょうして、性別転換の深奥に潜んでいて犯罪動機に符合するものを、中欧死神アンカウ口碑の中に見出そうとした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「それに就いて、御隠家様には、まだ月江様がお小さいうちから、ほとんど十幾年の間、本草書類や伝家の古書を渉猟しょうりょうして、その夭折わかじにの病源をたずね、やっと、一つの奇薬を見つけたのでござる」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵小説執筆のかたわらひそかに古来の文献を渉猟しょうりょうし、研究をつづけていたのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひろく群書を渉猟しょうりょうして見るまでもなく、我々の酒がもと入用に先だってかもされたこと、全然太平洋島民のクヴァも同じであったことは、今なおこれを記憶する人があるくらいである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
る時ドイツのバルテルスの『文学史』の序を読むと、バルテルスが多く書を読もうとして、廉価の本を渉猟しょうりょうし、『文学史』に引用した諸家の書も、大抵レクラム版の書に過ぎないといってあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その上にあれほど多くの文献を渉猟しょうりょうしたにもかかわらず、あまり時代が近いために、同じ方法を芭蕉翁の俳諧には及ぼさなかったのである。豊富なる資料は我々のために取残されている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)