淫奔いんぽん)” の例文
淫奔いんぽん、汚濁、しばらくのも神の御前みまえに汚らわしい。いばらむちを、しゃつの白脂しろあぶらしりに当てて石段から追落おいおとそう。——があきれ果てて聞くぞ、おんな
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに、お蝶の母親が、淫奔いんぽん囚徒しゅうとの後家さんであったことも、今となって、二官に慄然りつぜんとする因果を想わせて来ます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐らく我が国の娼妓しょうぎとなりし人の動機と理由とを統計上より数えなば、自己の淫奔いんぽんよりする者は少なく、大多数は一家のために犠牲ぎせいとなったのであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
君は平中を責める程、淫奔いんぽんな女を責めないぢやないか? たとひ口では責めてゐても、肚の底で責めてゐまい。それはお互に男だから、何時か嫉妬が加はるのだ。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その時分にはいくら淫奔いんぽんだといってもまだ肩や腰のあたりのどこやらに生娘きむすめらしい様子が残っていたのが、今ではほおからおとがいへかけて面長おもながの横顔がすっかり垢抜あかぬけして
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
失望の爲めに私は向う見ずになりました。私は浪費をやつた——放蕩ふしだらではない。放蕩ふしだらを私は憎んだし、今も憎んでゐます。それは私の西印度のメッサリナ(淫奔いんぽんな妻)の持前です。
しこうしてのちに権力と金力をもってあさはかな淫奔いんぽんの妻女をたらしこみ、ようやくにして不義の目的を達するにいたりましたから、ここに当然起こったのは夫なる浪人者の始末で
わが身の淫奔いんぽんを思わず、主人の小言を恨んでいたところ、去る二日のこととか、仕事の不出来より、またまた厳しくしかられたを根に持ち、去る五日の夕方、喜七郎が行水している折
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
夫人南子なんしはつとに淫奔いんぽんの噂が高い。まだそうの公女だった頃異母兄のちょうという有名な美男と通じていたが、衛侯の夫人となってからもなお宋朝を衛に呼び大夫に任じてこれとしゅう関係を続けている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
淫奔いんぽん自墮落じだらくなお近に、そんな面があらうと誰が氣のつくものでせう。
マタ・アリの専門は、男の欲望を扱うことだけで、淫奔いんぽんで平凡な女でしかなかったが、この平凡なマタ・アリの背後に在るドイツのスパイ機能は、およそ平凡から遠いものであるこというまでもない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
思うに多情淫奔いんぽんな細君は言うまでもなく亭主を困らせる。
悪妻論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
江戸から流れて来た旅芸者で郡内ぐんない甲斐絹屋かいきやへかたづいたのを、淫奔いんぽんたちですぐ帰され、その後鮎川の親分の世話になっている女で、それが賛之丞が小篠こしのへ来るとすぐに出来て、今じゃ
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国民皆堕落だらく、優柔淫奔いんぽんになっとるから、夜分なあ、暗い中へ足を突込つッこんで見い。あっちからも、こっちからも、ばさばさと遁出にげだすわ、二疋ずつの、まるでもって螇蚸ばった蟷螂かまきりが草の中から飛ぶようじゃ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうか。……いやそうだろう。あの銀の釵なら、二女ふたりの母親が、若い頃にしていた品、その釵が、淫奔いんぽんな血とつきまとって、お里に愛され、お八重にまで持たれて行った——怖ろしい気がする」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)