沓脱石くつぬぎいし)” の例文
そして、縁側の型ばかりの沓脱石くつぬぎいしの上に、その足跡にピッタリ一致する古い桐の地下穿きがチャンと脱いであったのである。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
沓脱石くつぬぎいしの上に立ってモジモジしているのを、座敷へ上らせないように、急いで座布団ざぶとんを持って来てそこの縁端えんはなに席を設けた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……すぐその縁には、山林局の見廻りでもあろうかと思う官吏風の洋装したのが、高い沓脱石くつぬぎいしを踏んで腰を掛けて、盆にビイルびんを乗せていました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その姿を見るが早いか、南縁の沓脱石くつぬぎいしに腰かけていた五分月代さかやきやさがたの浪人が、バラバラと彼の前へ駈け寄って来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにが起ッたのかと思っていると、甚造という下僕が走り込んできて、沓脱石くつぬぎいしに両手を突いた。俺は縁へ出て
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
例刻に病院から帰ると、玄関の沓脱石くつぬぎいしに、黒革の半靴が、きっちり揃えてあった。伸子には、この艶々した黒靴が、妙に人格を持っているように感じられた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
沓脱石くつぬぎいしの上に新聞紙を敷いて、その上にギプスベッドはひっそりと乾されていた。何だか場違いのような異様な感じがした。私は縁側にしゃがんで、それに見入った。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
抜足ぬきあししてそっと此方こなたへまいり、沓脱石くつぬぎいしへ手を支えて座敷の様子をうかゞうと、自分が命を捨てゝも奉公をいたそうと思っている殿様を殺すという相談に、孝助はおおいにいか
小ぢんまりした沓脱石くつぬぎいしも、一面に水に濡れて、切籠きりこ形の燈籠の淡い光がそれに映つてゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
犬は沓脱石くつぬぎいしのわきにうずくまって、こちらの機嫌をうかがうように薄眼をあけたりしている。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
「お縁側の沓脱石くつぬぎいしの上に、赤いしまのある女の蛇が、いるでしょう。見てごらん」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
真暗なお庭の沓脱石くつぬぎいしのあたりへ卵をコロリと取り落しました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
傾けながら縁端近くの沓脱石くつぬぎいしへ眼を落した。
中折なかおれの帽子を目深まぶかに、洋服の上へ着込んだ外套の色の、黒いがちらちらとするばかり、しッくい叩きの土間も、研出とぎだしたような沓脱石くつぬぎいしも、一面に雪紛々。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沓脱石くつぬぎいしへピッタリ腰をかけ、えりの毛を掻上げて合掌を組み、首を差伸ばしまして、口の中で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふと、縁にたたずんでいたので、すぐその蘭丸が小姓部屋から走り出て、沓脱石くつぬぎいし穿物はきものをそろえた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沓脱石くつぬぎいしから一足飛びに座敷の中へ入って見ると、眼も当てられぬ光景になっていた。
手に持っていた兵児帯へこおびを、沓脱石くつぬぎいしの上へ落したのだ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庭先にわさきりようとして、やみのなかにそれと見えた、沓脱石くつぬぎいしへ足をかけると、こはいかに、それは庭の踏石ふみいしではなくて、ふわりとしたものが、足のうらにやわらかくグラついたかと思うと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は槍の穂先をつかみ、縁側より下へヒョロ/\と降り、沓脱石くつぬぎいしに腰を掛け