気懶けだる)” の例文
旧字:氣懶
トム公は、すっかりゲッソリしている張の顔を、どうして人間がそんなに気懶けだるくなれるかというように、きょろっと、見つめて
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、伸子一人が残された室内には、しばらくゆるみきった、気懶けだるい沈黙が漂っていた——ああ、あの異常な早熟児が犯人だったとは。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
陰鬱いんうつ気懶けだるい気持が夜が更けるにつれて刻々に骨のずいまで喰いこんだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
物なべて気懶けだるし重し、わだのはら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
囲いの中に、おめきや雑音の騒動がハタとやむと、後はまたもとに返ってソヨともしない森の静けさ——住吉村の奥らしく、ジーッと気懶けだる蝉時雨せみしぐれ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはとつぜん、マヌエラが気懶けだるそうな声で、なにやらひとり言のようなものをドイツ語で言いはじめたのであった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
退屈はやがて、気懶けだるいものを誘ってくる。懶気だきは禁物といましめている武蔵にとって、そう気がつくと、わずかな間も、こんな所にいられない気がしてくる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、いつもそんな時には、額から瞼の上にかけて、重い幕のようなものに包まれてしまって、膝は鉛のように気懶けだるくなり、ホラこんな具合に、眼の中から脈搏みゃくはくの音が聴えてくるのです。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、馬上、弥生やよいの空の下へ出たが、まだ気懶けだるく、麗子のからだの香までが、心の奥にのこっていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母里太兵衛が、面をさしのぞくと、久左衛門は、その顔を、いよいよ気懶けだるげに振って答えた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今川家の将士らは、むしろ坦々たんたんとした道の無聊ぶりょうに、武装の気懶けだるさを思うくらいだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、定相は彼に対する注意も気懶けだるくなって、ぐっすり眠りに落ちてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見限みきりをつけて帰ろうと思ったが、禅房の門まで人がいっぱいなのである。それに、何となく気懶けだるくもあったので、彼はまた、人混みの中に坐り込んで、ケロリとした顔をしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柴朶垣しだがきの外には、秋の昼を、油のような海が、気懶けだるい波音を繰り返していた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四、五日前、栃木とちぎあたりの峠で豪雨にあい、それから後、少しからだが気懶けだるい。風邪気かぜけなどというものは知らなかったが——なんとなくこよいは夜露がものいのである。藁屋わらやの下でもよい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは生憎な……。さだめし体も気懶けだるかろう。では、手短に申すとして」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気懶けだるくって、はやく横にでもなりたい気がしきりとするので
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気懶けだるい体を脇息きょうそくにもたせかけながら高綱はそれを読んでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
壮者のさかんな血ほど、気懶けだる睡気ねむけを覚えるような日である。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いささか気懶けだるうなっておる」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)