歩行あゆみ)” の例文
いつ頃からこの不思議なよそおいをして、この不思議な歩行あゆみをつづけつつあるかも、余には解らぬ。その主意に至ってはもとより解らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我が心中の迷いの声ででもあろうかなどと思うて二、三歩歩行あゆみますと、また不思議にもギョクポ・ペブという美しい大きな声が聞えました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
みのるの着物の裾はすつかり濡れて、足袋と下駄の臺のうしろにぴつたり密着くつついては歩行あゆみのあがきを惡るくしてゐた。早い足の義男にはても追ひ付く事が出來なかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
先刻さっき二人が着いた頃には、三味線太鼓で、トトン、ジャカジャカじゃじゃじゃんと沸返るばかりだった——ちょうど八ツ橋形に歩行あゆみ板がかかって、土間を隔てた隣の座敷に
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
付て物語りけるにぞ夫婦は旅のうさをも忘れ歩行あゆみもさして太儀たいぎに非ざれば流石は若き人心よき道連みちづれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこで少し二人は歩行あゆみを早めて、火と音との遥かなる一角に向って歩み出しましたが、何をいうにも、白雲は大男であり、柳田は小男ですから、コンパスの相違が少々ある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『おや、おまへは。』とわたくし歩行あゆみめると、老女らうぢよいまきながら
さかりと咲亂さきみだれえも云れぬ景色けしきに寶澤は茫然ばうぜんと暫し木蔭こかげやすらひてながめ居たり此時はるかむかうより年頃四十ばかりの男編綴へんてつといふをまと歩行あゆみ來りしがあやしやと思ひけん寶澤に向ひて名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ナァニ、こんな物が重いものか」と、追い立てるようにして出発したが、その遅いこと牛の歩行あゆみよろしくである。仕方がないから一同その荷物の幾分を分担したが、それでもなかなか速くは歩かぬ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
差掛さしかけさせくつしと/\と踏鳴ふみならし靜々とぞ歩行あゆみける附從つきしたがふ小姓こしやうの面々には麻上下あさがみしも股立もゝだちを取て左右を守護しゆごしける引續ひきつゞいて常樂院天忠和尚てんちうをしやうむらさきの衣に白地の袈裟けさを掛け殊勝しゆしようげに手に念珠ねんじゆ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)