まさし)” の例文
今は疑ふべくもあらず、彼はまさしく人目を避けんと為るなり。すなはち人を懼るるなり。故は、自らとがむるなり。彼は果して何者ならん、と貫一はいよいよ深く怪みぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大仏殿の二階の上には、千余人昇り上り、かたきの続くをのぼせじとはしをばひいてけり。猛火みやうくわまさし押懸おしかけたり。喚叫をめきさけぶ声、焦熱、大焦熱、無間むげん阿鼻あびほのほの底の罪人も、是には過じとぞ見えし。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
さりぬべきなかだちをたのみて山中まさしとつがせしめ。家に仕えし老僕なにがしを始め下女など数多あまた付き添わせ。近き渡りにしかるべき家屋ありしを求めて。これに住居させ。残るところなく世話をせしかば。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
そして一発のその弾丸は若者の持っていた拳銃にまさしくピッタリ合うのであって、そして一方拳銃の方では六発込めてあった最初の弾丸が一つだけ発射されているのであった。若者の罪は争われぬ。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我聞く、犯罪の底には必ず女有りと、まことなりとせば、彼はまさし彼女かのをんなゆゑに如何いかなる罪をも犯せるならんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかれども彼はまさしくその声音こわね聞覚ききおぼえあるを思合せぬ。かの男は鰐淵の家に放火せし狂女の子にて、私書偽造罪を以て一年の苦役を受けし飽浦雅之あくらまさゆきならずとんや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)