横風おうふう)” の例文
敵の陣形は如何にも横風おうふうで、衝くべき虚がいくらもあるように思われたが、実際石を下してみると、つまらない所で蹉跌したりした。
愚かな一日 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と、さも横風おうふうに云った。あまり好い心持ではなかった。何の必要があって、こう自分を軽蔑けいべつするんだか不平にえない。それで単に
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れがその交際つきあい朋友ほういう互に交って遊ぶ小供遊こどもあそびあいだにも、ちゃんと門閥と云うものをもっ横風おうふう至極しごくだから、小供心に腹がたって堪らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
苦学生に扮装したこの頃の行商人が横風おうふうに靴音高くがらりと人のうち格子戸こうしどを明け田舎訛いなかなまりの高声たかごえに奥様はおいでかなぞと
適当な楽譜を得るためにはじめには銀座ぎんざへんの大きな楽器店へ捜しに行ったが、そういう商店はなんとなくお役所のように気位が高いというのか横風おうふうだというのか
二十四年前 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
受附の年老としとつた役人はさも横風おうふうに龍子の顔を睨みつけた。広い室の中に縦横に置かれた大きな机の前の彼方此方の顔が物珍らしさうに龍子の顔を老人の肩越しに覗いてゐた。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
それとも党勢不振の際、誓って落日を中天ちゅうてん挽回ばんかいせずんばやまずと云う意気込みで、あんなに横風おうふうに顔一面を占領しているのか知らん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
往来の向うから来る百姓のような男にむかって道をきいたら、そのとき私の素振りが何か横風おうふうで、むかしの士族の正体が現われて言葉も荒らかったと見える
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
第一の不審は、もしこれを実用上の道具と仮定すれば穴が二つでたくさんである。何もこんなに横風おうふうに真中から突き出して見る必用がないのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前にも申した通り私は儀式の箱に入れられて小さくなるのを嫌う通りに、その通りに儀式ばっ横風おうふうな顔をして人を目下もくかに見下だすこともまた甚だ嫌いである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
寄附金の依頼でないだけに七拝ほど横風おうふうに構えている。寄附金の依頼ではないがその代りすこぶる分りにくいものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
島田はかねて横風おうふうだという評判のある男であった。健三の兄や姉は単にそれだけでも彼を忌み嫌っている位であった。実は健三自身も心のうちでそれを恐れていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一旦横風おうふうの昔に返った彼の言葉遣がまた何時の間にか現在の鄭寧ていねいさに立ち戻って来た。健三に対して過去のおのれに返ろう返ろうとする試みを遂に断念してしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎の言葉つきや話しぶりの比較的横風おうふうなところからだいぶ位地の高い人とでも思ったらしく
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帰りに山嵐は通町とおりちょうで氷水を一ぱいおごった。学校で逢った時はやに横風おうふうな失敬な奴だと思ったが、こんなにいろいろ世話をしてくれるところを見ると、わるい男でもなさそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はこの種の人間としてはむしろ不相応なくらい横風おうふうな言葉でこんな事を云った。それから片手を胸の所で握って見せて、その握ったこぶしをまたぱっと袋の方へぶつけるように開いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところがこうして佐野が一人新しく席に加わって見ると、友達の手前体裁が悪いという訳だか何だか、自分に対する口のき方が急に対等になった。ある時は対等以上に横風おうふうになった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)