椴松とどまつ)” の例文
そしてところどころに、大きい黒松と椴松とどまつとの立木が、真直に立っている。松は日本で見られる黒松と同じような皮の幹をしている。
ネバダ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それが育つと、その陰に椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの芽ばえが出る。そして、それらの松の大きくなるところには、樺はその繁殖を停止してしまふ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そして傾斜地を埋めた青黒い椴松とどまつ林の、白骨のように雨ざらされたこずえが、雑木林の黄やあか葉間はあいに見え隠れするのだった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
蝦夷松えぞまつ椴松とどまつ白樺しらかんばの原生林を技けて、怪獣のごとくまた疾風しっぷうのごとく自動車で横断することは、少くともこの旅行中の一大壮挙にはちがいない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
蝦夷松えぞまつ椴松とどまつ、昔此辺の帝王ていおうであったろうと思わるゝ大木たおれて朽ち、朽ちた其木のかばねから実生みしょう若木わかぎ矗々すくすくと伸びて、若木其ものがけい一尺にあまるのがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
五尺に七尺程の粗末な椴松とどまつの大机が据ゑてある南の窓には、午後一時過の日射ひざしが硝子の塵を白く染めて、机の上には東京やら札幌小樽やらの新聞が幾枚も幾枚も拡げたなりに散らかつて居て
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
天地は椴松とどまつと白樺とに封ぜられたり。渓即ち路也。水、足を没す。膝までには及ばず。岩石あれば、岩石より岩石へと足を移す。沢蟹がおりそうなりとて、嘉助氏石を取りのけしに、果しておりたり。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
多くの木挽こびき等が雪の深山に椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの切り倒されたのを挽き、多くの人夫等がそれをそりで引き出すところに飛んで行く。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
あの小屋を囲る美しい椴松とどまつの梢あたりを、初期状態の雪の結晶が流れとぶ日があるかも知れないというのである。
雪後記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ただ二隻のランチに一隻ずつ曳かれた私たちの大団平船だんべいぶねが、沿岸に蘆荻ろてきが繁って、遥かの川上に中部樺太の山脈が仰がれ、白樺しらかんば、ポプラ、椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの林を左右に眺めて
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
横筋の地肌の暗灰色の幹に、真っ赤なつたが一面に絡みついているのであった。そして、はるかの谷底には暗緑色の椴松とどまつ林帯が広がり、そのこずえの枯枝が白骨のように雨ざれているのだった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さうして、椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの樣なものは用材として、また燐寸マツチ原料として伐切ばつさいされる上に、また製紙原料になつてをる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
周囲の景色には何の変ったところもなくて、枝もたわわに雪に埋れた高い椴松とどまつも、樹氷につつまれた枝を空にかざしている嶽樺だけかんばの姿も、昔のままである。
雪後記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
椴松とどまつの伐りっぱなしの丸太の棒が、一本ずつ、続々つぎつぎに、後から後から、ふかのごとく、くじらのごとく、さめのごとく、生き、動き、揺れ、時には相触れ、横転しつつ、二条のレールの間を
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
道はその右手に深い渓谷を持ち出して、谷底の椴松とどまつ林帯はアスファルトのように黒く、そのこずえの枯枝が白骨のように雨ざれていた。谷の上に伸びた樹木の渋色の幹には真っ赤なつたが絡んでいたりした。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
周囲は亭々たる蝦夷松えぞまつ椴松とどまつの林で、これらの樹がクリスマスの木のように雪に枝を垂れている間に混って、嶽樺だけかんばと呼ばれている白樺の化けたような巨樹が
雪の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
見渡せば、右も左も黄葉紅葉の賑ひで、その中に、蝦夷松えぞまつまたは椴松とどまつの霜にめげない青針り葉の姿が、ここかしこ、枝をかさねて、段々にとがり立つてゐる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
椴松とどまつの霧たちかくす日の在処ありど気流の冷えがとみにししる
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、川が大きくまはつて、萬面、紅葉の丸山をいだくところなど、赤い間にところ/″\黒ずんだ椴松とどまつ二三本の異を點じ、流れはふつ/\と白く泡立つてゐる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
椴松とどまつの枝には、軟い新雪が五寸ばかり昨夜のうちにつもっている。そしてその梢の方は朝陽を受けて薄紅色に輝いているが、下枝の雪にはまだ青みがかった牛乳色の夜が残っている。
十勝の朝 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
宗谷そうやナイボの露領時代の濫伐林の跡を見に行つた時、椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの枝からふり落ちるどす黒い——雌は赤黒い——ダニが、蕗や芭蕉の葉から義雄等に移り、汽船に歸つてから
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
街までは五マイルくらいあり、その間ずっと、椴松とどまつ闊葉樹かつようじゅとがまばらに立っている原野がつづいている。この人手の全然はいっていない原野の中に、道路だけは非常に立派に出来ていた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして細い闊葉樹と、椴松とどまつの北海道でいえば十五年生くらいの小さい木とが、一面に乱雑に生い茂っているばかりである。その中を道路だけは、むやみと立派な広い鋪装路が、真直に通っている。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)