松柏しょうはく)” の例文
また、道士どうしたちの住む墻院しょういん、仙館は、峰谷々にわたり、松柏しょうはくをつづる黄や白い花はましらや鶴の遊ぶにわといってもよいであろうか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片方を花の木とすれば、片方は松柏しょうはくの色を変えぬ姿に比べられるだろう。これこそ一生の妻にふさわしい女だ、と登は思った。
と山三郎は無理に馬作の手を引いてだん/\くと、山手へ出ましたが、道もなく、松柏しょうはく生繁おいしげり、掩冠おいかぶさったる熊笹を蹈分ふみわけて参りますと
見なれている幽谷ゆうこくのしらべをつくる松柏しょうはくたぐいは、少しも経之に常日頃つねひごろのしたしい風景にならずに、どこか、素っ気ない他処よその庭を見るようなはなれた気持であった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
松柏しょうはく月をおおひては、暗きこといはんかたなく、ややもすれば岩に足をとられて、千仞せんじんたにに落ちんとす。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
道がわかればいはゆる家事が非常に愉快なる、非常に大切なることとなるはずに候。又芸に秀づる人は、たとへば花ばかり咲く草木の如し。松柏しょうはくなどは花は無きに同じ。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
松柏しょうはくもてその首を穿てばすなわち死すと、故に今柏を墓上にえてその害を防ぐなりと。
そうすると、右手の松柏しょうはくの茂った森の中から、やさしい声が起りました
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この方には漢名はないということである。鴎外はもっぱら漢土の文献について説を立てているのであるが、楸は漢土では松柏しょうはくの熟語と殆ど同義に用いられ、めでたい木で、しかも大木になるとある。
地上はすべて新緑である、あまり葉のかわらない松柏しょうはくさえも、目立って若々しい。桃色や青白い大きい、様々な花が、眼の前に、まだハッキリと見えるが、遠方はとぎれとぎれのもやおおわれている。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
千年を経た松柏しょうはくのごときこの家のあるじ——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆさぶり落ちる松柏しょうはくの夜露と共に、人のささやきも黒衣くろごの影も、いつのまにか諏訪の森から消えていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
只今は川岸の土が崩れて余程平坦たいらになりましたが、其の頃は削りなせる断崖がけで、松柏しょうはくの根株へかしらを打付け、脳を破って血に染ったなり落ると、下を通りかゝったは荷足船で
さらにはまた、世の中をこんなかたちにまで荒した張本人は尊氏ではないかと、彼の虫のいい隠棲いんせいのねがいなどは、山林の松柏しょうはくもゆるさじと吠えこばむもののように見えた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此方こちらを遅く立ちましたから、月岡へ泊れば少し早いなれども丁度いのを、長い峠を越そうと無暗むやみに峠へ掛りますると、松柏しょうはく生茂おいしげり、下を見ると谷川の流れもより見え
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)