朱実あけみ)” の例文
旧字:朱實
八十馬の毒牙にかかろうとして救われたことのある朱実あけみでもおればだが——ほかにその説明をする者としては、宇宙あるのみであるが
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、彼の厚い二つの唇は、兵士たちの最後の者が、跛足びっこを引いて朱実あけみを食べながら、宮殿の方へ去って行っても開いていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たかだかと冬木の朱実あけみ垂りにけりきびしくもむか向ひ墓原
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朱実あけみや、開けておあげ。どうせ落人おちゅうどだろうが、雑兵なんか、御詮議ごせんぎの勘定には入れてないから、泊めてあげても、気づかいはないよ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、数種の行器ほかいが若者の前に運ばれた。その中には、野老ところ蘿蔔すずしろ朱実あけみと粟とがはいっていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
朱実あけみという女でございますよ。……ほれ、親方様が、木曾路で見かけて、女郎にならぬかといって、お抱えになった、旅の娘っ子で」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くつがえった酒瓮みわから酒が流れた。そうして、海螺つび朱実あけみが立ち籠めた酒気の中を杉戸に当って散乱すると、再び数本の剣は一斉に若者の胸を狙って進んで来た。身屋むやの外では法螺ほらが鳴った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「そうそう、その又八ってえ方の野郎は、もぐさ屋のお甲と朱実あけみを連れて、すぐあの晩、夜逃げしてしまった。……今頃、どうしていやがるか」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御飯をたべるまも、子の泣き声が耳にあって、いそがしげに、飯屋のめしを喰べて来た朱実あけみは、そこの軒から駈けて来て
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海鳴りと松かぜに暮れてゆく障子のうちに、朱実あけみはうつらうつら昏睡こんすいしていた。枕を当てがわれると急に発熱して、頻りとそれからは囈言うわごとをいう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実あけみは、籠から蒼空あおぞらへ出た小禽ことりのような自由を持ったが、なんといっても、いちど海で仮死の状態になった体である。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、伊吹山のよもぎ造り——後には娘の朱実あけみおとりに、京都で遊び茶屋をしていた、あの後家のお甲であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿国おくに歌舞伎でおぼえた小歌を口誦くちずさみながら、朱実あけみは、家の裏へ下りて、高瀬川の水へ、洗濯物あらいものの布を投げていた。布を手繰たぐると、落花はなの渦も一緒に寄って来た。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のみでなく、朱実あけみにもそうさせる、性質が派手ずきなのだ、いつまでも若い日でありたいたちなのだ。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実あけみも今は、彼に奉じる特殊な側女そばめとなっているし——もっと驚くべきことには、武蔵が、手しおにかけて数年も愛育して来た少年城太郎までが、いつのまにか
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ朱実あけみという女性を思いうかべると、ふと厭な気持がして、希望に暗いかげをしてくるが、それとても、武蔵に対する強固な信頼にくらべれば物の数でもない
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実あけみはじっと息をころして隠れていた。花桐というのは、角屋へ来てからの自分の名である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい先頃、大坂の河端で、ふと見かけた又八が、後を追って行き会った、朱実あけみであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それを、穿じり出す気なら、何も朱実あけみに前触れはさせておかぬ。野武士のおきてがある手前、一応は、家捜しもするが、今度のところは大目に見てゆるしているのだ。お慈悲だと思え」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隣家となりの運平親方は、前から又八へ、よくそういってくれていたが、朱実あけみは首を振って
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も知らずに留守居をしていた朱実あけみの身は奉行所の手に今、保護されている。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、それは城太郎にも覚えのある——つい八日前の元日の朝——五条大橋のたもとで、朱実あけみささやいていた武蔵へ向い、人をばかにしたような大笑いを捨てて去った佐々木小次郎であった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……ああ、朱実あけみだ。……朱実にちがいない」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よう、朱実あけみか」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)