“曵(ひ)” の例文
トタンにがらがらと腕車(くるま)が一台、目の前へ顕(あらわ)れて、人通(ひとどおり)の中を曵(ひ)いて通る時、地響(じひびき)がして土間ぐるみ五助の体(たい)はぶるぶると胴震(どうぶるい)。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襞(ひだ)と云ふ襞(ひだ)を白く曵(ひ)いたアルプス連山の姿は予(かね)て想像して居た様な雄大な趣(おもむき)で無く、白い盛装をした欧洲婦人の群(むれ)を望む様に優美であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
そしてさうした大層な仕事は、みんな、蟻達の顎(あご)の力で曵(ひ)き出された一と粒一と粒で成就されるのだ。
ですからわたくしは、何処(どこ)に往っても、樹の有る処、花の有る処、乃至(ないし)は黙々と口噤(くちつぐ)む石、空を曵(ひ)く一抹(いちまつ)の雲の有るところでは、決して自分がたった独りでいるのだとは思いはしないのです。
取(と)らすべしとの給(たま)ひしかど元來(もとより)落(おと)せしは我(わ)が粗忽(そこつ)なり曵(ひ)かれしも道理(どうり)破損(そこね)しとて恨(うら)みもあらず况(まし)てや代(かは)りをとの望(のぞ)みもなし是(こ)れは亡母(なきはゝ)が紀念(かたみ)のなれば他人(ひと)に奉(たてまつ)るべき物(もの)ならずとて拾(ひろ)ひ納(あつ)めて懷(ふところ)にせしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
という処へ、荷車が二台、浴衣の洗濯を堆(うずたか)く積んで、小僧が三人寒い顔をしながら、日向(ひなた)をのッしりと曵(ひ)いて通る。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど藤つつじの盛(さかり)な頃を、父と一所に、大勢で、金石の海へ……船で鰯網(いわしあみ)を曵(ひ)かせに行(ゆ)く途中であった……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)