曲事くせごと)” の例文
売僧まいす、その袖の首は、何としたものじゃ、僧侶の身にあるまじき曲事くせごと有体ありていに申せばよし、いつわり申すとためにならぬぞ」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ややありて渠は鉢前はちまえ近く忍び寄りぬ。されどもあえて曲事くせごとを行なわんとはせざりしなり。かれは再び沈吟せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一箇条宛致合点急度きっと相守可申候、若此旨相背候はば、如何様いかよう曲事くせごとにも可仰付云々。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
世人はこれを悟らずに今日でもヤマノイモに薯蕷の字を使っているのはもってのほかの曲事くせごとである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「川合又五郎と申す者は一夜の宿を貸し候とも二夜と留置き候者は屹度きっと曲事くせごとに行わるべき者也」
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
従前からの師直がしていた下知状やら曲事くせごとを洗いだてて、これを直義へ報告していた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「部落の長たる自分の娘が宗介天狗のお心持ちにそむき下界の若者とちぎるさえ言語道断の曲事くせごとだのに、部落を捨ててどことも知れず姿を隠してしまうとは何んという不心得の女であろう」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同書に引用した南多摩郡浅川村大字上椚田かみくぬぎだ原宿飯縄神社の文書には「八王寺御根小屋に候の間薬師より山内の山の竹木るにおいては曲事くせごとたるべきの旨、その時分よりおおせ付けらるるの処云云」
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
曲事くせごとあふさふらふ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
彼のその立場を巧みに利して、何奴かが為にすべく、こしらえ立てた曲事くせごとだろう。——そして宮廷内の結束を分裂させ、帝位をもゆり動かそうとする者が、どこかにあるにちがいない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容易ならない曲事くせごとと、甚五衛門は身を固めきっと天地を見廻わした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……大覚ノ宮などと仰っしゃる親王はおわさぬぞ。そちは曲事くせごとを申しておるの」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふそくのむね、申すのよし言語ごんごどうだん、曲事くせごとに候が、何方いずれを相たずね候とも、また二たびは、求めがたきつまにもあれば、其許そこもとにも、おもおもしく、りん気などに立ち入りては然るべからず、ただし
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大切な尊客の前において、不用意なる能をお目にかけなどしたは、みぐるしき曲事くせごとたるばかりでなく、芸者げいしゃとして、平常の心がけの不つつかによる。芸道の鍛錬たんれんも、武家の兵法も、変りあるべきでない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)