昂揚こうよう)” の例文
はし流を預っている彼女の、含蓄のある真伎倆を、も一度昂揚こうようさせるために、よい作を選み、彼女の弾箏五十年の祝賀にそなえたいと思ううちに
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そういう類似の経験をもつ者だけが、相交わって互いに心理を理解し共鳴したうえに、時として詩の興味は昂揚こうようし、感覚が尖鋭化していたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
書物も紙も机も灰になってしまったのだが、私は内心の昂揚こうようを感じた。何か書いて力一杯ぶつかってみたかった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
飛鳥あすか白鳳はくほうを通じて興隆しきたった文化の、更なる昂揚こうようがあったであろう。だがそういう開花の根底には、必ずしも天国のごとき平和が漂っていたわけではない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しかしまだ人生の複雑な起伏をあまり多く経験していないので、こんな場合、感情がどんな昂揚こうようのしかたをするものか、はっきりとわかりかねるところがあった。
十郎太は勘定が気になるので、はじめのうちは酒の数に注意していたが、話が進むにつれて(その話の性質上)やがて気分が昂揚こうようし、自分から景気よく飲みだした。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼のようしている北陸や木曾の猛兵のあいだには、まだ新しい「武士の道」が昂揚こうようされていなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時西欧から北欧へかけて異常な昂揚こうようを示していた婦人問題熱に対するチェーホフの敏感な反応を示すものであることは明らかだが、彼が兄に送った長い手紙によると
これはイスラエル建国の歴史的回顧と国民的復興の期待との最も昂揚こうようしている時期だ。群衆の人気は明らかにイエスの側にある。今こそ復興運動の烽火のろしをあぐべき絶好の機会チャンスである。
彼は内的昂揚こうようの時期を過ごした。彼はもうなんらの鎖の重荷をも感じなかった。もう何事をも期待しなかった。もう何物にも従属しなかった。自由の身であった。戦いは終わってしまった。
芸術家が創作にあたって味わうような精神の昂揚こうようを、ひょっと一度でも味わうことができたとしたら、僕はあえて自分をくるんでいる物質的なうわつらや、それにくっついている一切を軽蔑けいべつして
しかしこの場面の夫妻の昂揚こうようした情緒は、前段の不自然な苦悩によって鋭くされているがゆえに、断片的には根源的な力をもって人に迫るにかかわらず、なお依然として我々の心に反撥を感ぜしめる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
晴々しい気持の昂揚こうようなぞ、とても長くは続かなかった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
国威の昂揚こうようする偉大な時代を背景としつつ、一方では凄惨せいさんな地獄絵は幾たびか展開されていたのであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
汚穢おわいくつ穿いて太陽の下を往くが、ここには一杯の佳き葡萄酒と、高邁こうまいなる感情の昂揚こうようがある、見えずといえども桂冠は我らの額高く輝き、かたちなけれど綾羅りょうらの衣我らを飾る、我らに掣肘せいちゅうなく
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
論戦の一日は終わって宮を出で給うたが、弟子らはイエス様の花々しき勝利に魅せられ、イスラエルの復興の近きを思うて心の昂揚こうようを禁じえず、そびえ立つ神殿の威容もひときわ荘厳に仰がれました。
これも正成が士気昂揚こうようのための一計であったろう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)