捺印なついん)” の例文
私の実印は御送り致しませんが、もし私の名義となっているものがありましたらその名義変更のためには何時いつでも捺印なついん致します。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こう云う事を防ぐためには証明書が幾枚もいるような、面倒な手続を必要とするらしいのです。何をするにも日本では署名と捺印なついんが必要です。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その他尾張おわりの窯以外のものでは「霞晴山」と捺印なついんあるもの、または角皿などで北陸産のものもあるがいずれも味わいは劣る。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
工員に渡す月給袋の捺印なついんとか、動員署へ提出する書類とか、そういう事務的な仕事に満足していることは、彼が書く特徴ある筆蹟ひっせきにもうかがわれた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
補充兵でまだ一ツ星ではあるが、毎日乗務が終って私に捺印なついんをもとめる勤務手簿には「佐川新太郎」の文字が見られた。
鮎沢は無言でポケットから小切手帳をとり出し、十万円の金額を書きこんで捺印なついんした。それを相手に手渡しながら
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
署詰めの下士が蝋燭ろうそくをともしてきてテーブルの上に置いた。ジャヴェルは腰を掛けて、ポケットから捺印なついんしてある一枚の紙を取り出して、何か書き始めた。
「フン、それもよかろう。だが何かね。波田、おまえは自分から進んで、この要求書に捺印なついんしたんじゃないだろうな。だれかが、お前を煽動せんどうしたんだろうな」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ときのち、二つの問題は裁決され、書役が記録を読みあげた。それは江戸番の家老、古内志摩に送られるので、外記と甲斐が署名捺印なついんをし、津田玄蕃が預かった。
臼井は記名捺印なついんをして、その預り証を川北老に手渡した。川北老はそれをすみれ嬢に見せ、嬢がうなずくと、それを八つにたたんで、胸のポケットにしまってボタンをかけた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女はその翌日婚姻証書に捺印なついんしたこと、以前の女はそのいつのまにか姿をかくしてしまったこと、一ヶ月もたつと、彼女に対して非常な虐待がはじまってきたこと
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ナオミはいきなり私のくびにしがみつき、その唇の朱の捺印なついんを繁忙な郵便局のスタンプ掛りがすように、額や、鼻や、眼瞼の上や、耳朶みみたぶの裏や、私の顔のあらゆる部分へ
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここに持って来た書類に、署名、捺印なついんして下さい。これは、ストライキ決議と、その指令書です。この争議を一挙に解決するには、もはや、ストライキによる外はありません。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
歴史は意味なきペーヂの堆積にあらず、幾百世の国民は其が上に心血を印して去れり、骨は朽つべし、肉はくさるべし、然れども人間の心血が捺印なついんしたる跡は、之を抹すべからず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
が、すでに捺印なついんされた証書が交わされ、母の決心を変えさせることもできないのだ。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
というような誓詞を記し、名主、百姓代、組頭等これに捺印なついんしたものである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
学生や、吃りは、皆の名前をかいた誓約書を廻して、捺印なついんを貰って歩いた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「酔っぱらった揚句あげくに、書類か何かに捺印なついん署名したっけねえ」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
繰返さるる説明と、実に私自身並びに三人の捺印なついんを要した証文によって、ついに望をぐるに至ったのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それに捺印なついんして、その一枚を切り取ると、実印と小切手帳と万年筆を良斎のふところにねじこみ、また細引きを厳重に縛りなおして、身動きもできないようにしたうえ、手ぬぐいを取り出して
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これに彦太郎は、午前中をつぶして、叮嚀に一々署名しょめいし、捺印なついんした。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
永田杢次の署名と捺印なついん
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)