さしは)” の例文
旧字:
自分はその憐れな物語に対する同情よりも、こんな話をことさらにする兄の心持について、一種いやな疑念をさしはさんだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今まで瑠璃子夫人をさしはさんで、鞘当的な論戦の花が咲いたことは幾度となくあつたが、そんな時に、形もなく打ち負された方でも、こんなにまで取り擾したものは一人もなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
自白すると自分はこの問題を母ほどこまかく考えていなかった。したがってそんな疑いをさしはさむ余地がなかった。あってもその原因が第一不審であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今まで瑠璃子夫人をさしはさんで、鞘当さやあて的な論戦の花が咲いたことは幾度となくあったが、そんな時に、形もなく打ち負された方でも、こんなにまで取りみだしたものは一人もなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そりゃ当人の望み通りにした方が好うがすななどと云う縁談に関する助言じょごんを耳にさしはさむくらいなもので、面と向き合っては互に何も語らずに久しく過ぎた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて小六は自分の部屋へ這入はいる。宗助は御米のそばへ床を延べていつものごとく寝た。五六時間ののち冬の夜はきりのようなしもさしはさんで、からりと明け渡った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなた方は兄さんの将来について、とくに明瞭めいりょうな知識を得たいと御望みになるかも知れませんが、予言者でない私は、未来にくちばしさしはさむ資格を持っておりません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はこの談話の進行中、ほとんど一言ひとことも口をさしはさむ余地を与えられなかった。自然の勢い沈黙の謹聴者たるべき地位に立った彼女には批判の力ばかり多く働らいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頃のは西洋の礼式というものを殆んど心得こころえなかったから、訪問時間などという観念を少しもさしはさむ気兼きがねなしに、時ならず先生を襲う不作法ぶさほうを敢てしてはばからなかった。
小蟇ちいがまはおとなしくって好いが、大蟇おおがまは少し猛烈過ぎると云うのを聞くたびに、僕はあの叔父がどう千代子を観察しているのだろうと考えて、必ず彼の眼識にうたがいさしはさみたくなる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
能弁なる彼は我輩に一言の質問をもさしはさましめざるほどの速度をもって弁じかけつつある。我輩は仕方がないから話しは分らぬものとあきらめてペンの顔の造作ぞうさくの吟味にとりかかった。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時、早く行かんと間に合わないかも知れないからと電話口でいたので、看護婦は汽車で走る途々みちみちも、もういけない頃ではなかろうかと、絶えず余の生命に疑いをさしはさんでいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さしはさむ洋卓に、さえぎらるる胸と胸をむかい合せて、春とざす窓掛のうちに、世を、人を、争を、忘れたる姿である。き人の肖像は例にって、壁の上から、閑静なるこの母子を照らしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は表向おもてむきそれに対して一言いちごんの非難をさしはさむ余地がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)