押取おっと)” の例文
お丹突然いきなり、「畜生——」と一喝して長羅宇ながらうの煙管を押取おっとり、火鉢の対面むこうに割膝して坐りたる鉄の額を砕けよと一つつ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳の蔭へ槍を隠して橋を渡ろうとした米友は、この声を聞くと共に、その槍を押取おっとって驀然まっしぐらに駈け出しました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それっ」と居合せた者八人ばかりが押取おっとり刀でとびだしていった。——さあ活劇である。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と左右から小太い竹の息杖を押取おっとって打って掛りましたが、打たれるような人ではない、ヒラリと身をわしながら、木剣作りの小脇差を引抜き、原文の持ってる息杖を打払ぶっぱら
今日も雨かと思うたりゃ、さあお天道様てんとさまが出なさったぞ、みんなうと呼ばって、胡麻塩頭ごましおあたまに向鉢巻、手垢に光るくるりぼう押取おっとって禾場うちばに出る。それっと子供が飛び出す。兄が出る。弟が出る。よめが出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
擬いの神尾主膳はたまり兼ねて刀を押取おっとると、附添いの者合せて十余人がみな同じようにして竜之助を取捲く。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
台所の豪傑儕ごうけつばら座敷方ざしきがた僭上せんじょう栄耀栄華えようえいがいきどおりを発し、しゃ討て、緋縮緬ひぢりめん小褄こづまの前を奪取ばいとれとて、かまど将軍が押取おっとった柄杓ひしゃくの采配、火吹竹の貝を吹いて、鍋釜の鎧武者が
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち心づきて太刀を納め、おおいなる幣を押取おっとって、飛蒐とびかかる)御神おんかみはらいたまえ、浄めさせたまえ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、神尾主膳は——よせばよかったのですけれども、来客の手前と、例の通り酒気を帯びていたのだからかっと怒って、真先に自分が長押なげしから九尺柄の槍を押取おっとりました。
米友はその大猿を片手で掴んで群猿の中へ投げ込んで、例の手慣れた杖槍を押取おっとりました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
棍元教の大先達が、自在棒を押取おっとって控えたからには、たなそこをめぐらさず、立処たちどころに退治てくれる。ものと、しなにっては、得脱成仏もさしてる。……対手あいてによっては、行方ぎょうりきが手荒いぞ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枯野へ霜がおりたような、豆府の土手の冷たいのに、押取おっとって、箸を向けると
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
附いていた若いしゅがむらむらと押取おっとり包んで、胴上げにして放り出した。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)