手練てだれ)” の例文
一あめ、さっと聞くおもい、なりも、ふりも、うっちゃった容子のうちに、争われぬ手練てだれが見えて、こっちは、ほっと息をいた。……
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第三番は小森蓮蔵——これもまた手練てだれなもので、同じように三枚の的を打ち砕いてしまいました。そうして同じような賞讃を受けました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なぜなら、小次郎に時間を許せば、彼も手練てだれの剣客だから、振りかぶった剣形の中から冷静をとりもどしてくるからである。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
評判に違わぬ無双の手練てだれ、今投げた鉄槌の凄じさは何んと云ったらよかろうか。……きゃつの笑いの恐ろしさを
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まア/\待った」と声を掛ける途端に、また其のの者が逃出そうと致しますから、飛鳥ひちょうの如く彼方あなたへ駈け此方こなたに戻って一々引留める文治が手練てだれ早業はやわざ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新生、馬生、龍生、小勝——みんな初代圓生門下の逸足いっそくで、今は亡い得がたき手練てだればかりだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それゆえ初心者には解せぬ、いうにいえぬうまみを出すことに苦心があったわけである。で、あれもこれもと知りつくした、一流の手練てだれの人たちがならいはじめてひろめた。
「仲々手練てだれな事をやったもんですなあ」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さすが、手練てだれ舊兵ふるつはもの
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
魔法つかひの手練てだれかな。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ツカの根元までクラヤミの気配を狙って一刺しにできるのは相当の使い手でありましょう。剣術に手練てだれの者は泉山先生の同門、志道軒一人のようです
と言いながら小森は、中黒の矢を一筋とって弓につがえて、ねらいの形をして見せました。なるほど、よい形で、さすがに手練てだれの程もしのばれないことはありません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
老人だから、楽屋で急病が起って、踊の手練てだれが、見真似の舞台を勤めたというので、よくおわかりになろうと思う。何、何、なぜ、それほどの容色きりょうで、酒場へ出なかった。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう云ったのは石渡三蔵で、上段の間からヒラリと下りると壁にかけてあった赤樫あかがしの木剣、手練てだれが使えば真剣にも劣らず人の命を取るという蛤刃はまぐりばの太長いのをグイと握って前へ出た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さすが、手練てだれ旧兵ふるつはもの
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
一揆の起つた松倉藩では領内に鳥銃の自由使用を許してゐたので、農民の中には鉄砲手練てだれの者が少くなかつた。
鉄砲 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
と扇をきりりと袖を直す、と手練てだれぞ見ゆる、おのずから、衣紋の位に年けて、瞳を定めたそのかんばせ硝子がらす戸越に月さして、霜の川浪照添てりそおもかげ。膝立据たてすえた畳にも、燭台しょくだいの花颯と流るる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さては素晴らしい手練てだれと見える」仮面の城主は眼をひそめた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
体格の均斉ととのい、手練てだれの手取り相撲。遠江灘オタケの重量も馬鹿力もその技術には歯が立たなかった。
くうを打たれて、手練てだれに得ものを落されたように——且つ器械をしらべようとする注意だと思ったように、ポカンと渡すと、引取るがはやいか、ぞろりとくれないつまを絞って小褄をきりきりと引上げた。
手練てだれの達人に会ふと首をチョン切られても、切られた気がしないとか元通り首が乗つかつて息をしたり喋つてゐるなどゝいふ痛快な思ひつきが、僕は無類の骨董を見るやうに大好きだ。
五月の詩 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)