所天をつと)” の例文
皮肉を云はれながらも、所天をつとがいつに無く多少のうち解けを見せるのが、千代子には嬉しかつたらしい、で、ながちりをしてゐたので
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
此のぱなすやうな仕打をされたので、近子はちつ拍子抜ひやうしぬけのした氣味であつたが、んと思つたのか、また徐々そろ/\所天をつとの傍へ寄ツて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
逸りきつたる若き男の間違仕出して可憫あはれや清吉は自己おのれの世を狭め、わが身は大切だいじ所天をつとをまで憎うてならぬのつそりに謝罪らするやうなり行きしは
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その所天をつとと同じやうに役者じみた所があつて、ちよツと微笑して見せるのにも、その圓く肉づいた頬ツぺたにまで表情が隘れてゐる。
爲樣しやうがあらうが有るまいが、それはわたしの知ツたことぢやない! といふやうな顏をして、近子ちかこはぷうとふくれてゐた。そしてやが所天をつとそばを離れて、椽側えんがは彼方あつち此方こつちと歩き始めた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そして、かのぢよはのろけまじりに昔の所天をつとのことや近頃會ふ人々のことを語り、義雄の燒き持ちしんを挑發しようとする。そして
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
近子ちかこくちびるみながら、さも忌々いま/\しさうに、さも心外しんぐわいさうに、默ツて所天をつと長談義ながだんぎを聽いてゐたが、「ですから、貴方あなたはおえらいのでございますよ。」と打突けるやうにツて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
千代子などとは違つて、大野のもとのは優しい、いい細君であつたのに——然しまた今のもお鳥などとは違ひ、所天をつとの片腕になつてゐる。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
次ぎに、巣鴨學校の美髯びぜん校長がゐる。お宮さんともとの所天をつと、また今の所天との關係には、この校長は忘るべからざる人である。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「可哀さうも何も」と、つツ立つたまま、わざと唇を噛んで見せ、「あつたものか? 所天をつとに對して教訓的なことを云ふのア無禮の極だ!」
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「わたし、不賛成です!」靜子はからだを振つて、その所天をつとから一歩を退いた。「田村さんのやうな人は、もう、來て貰ひたくありません。」
そしてその所天をつとの枕もとへ無作法にばたりと坐わつて、その手紙を突き出した。こちらはこの相變らずの氣違ひじみたがさつを嫌つてたのだ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「おれは、ね」と、分らせるやうに念を押して、「手前てめえのゐるやうな家にやア父でもない! 所天をつとでもない!」
ただ自分の暫らく厄介になることに對し、かの女がその所天をつとにあたまから反對(があるかも知れないから)の氣勢を吹き込まない樣にさへして呉れればいい。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「田村さんが旅からお歸りになつたのです」と、お豐さんはやはらかい物腰で所天をつとの問ひに答へる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「然しそれは」と、お綱は躍起となつて、「世間一般の風習で、仕方がないでは御座いませんか? 他人なら知らず、自分の子供を可愛がるのは自分の所天をつとを愛するも同じです、わ。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
如何に今の所天をつとにばかりうち込んで——かの女はどんなお客をでも振つてしまふので有名であつたさうだが——一緒になつた女だとは云へ、今日の樣なえない状態をよく辛抱してゐる、と。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「では、休みませうか」と、お綱は所天をつとの方を見た。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
所天をつとの俸給はその割合ひにはあがつて行かない。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)