或晩あるばん)” の例文
慶三は或晩あるばんそよとの風さえない暑さに二階の電気を消して表の縁側は勿論もちろん裏の下地窓をも明放ちお千代と蚊帳の中に寝ていた時
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伴藏は懶惰なまけものにて内職もせず、おみねは独りで内職をいたし、毎晩八ツ九ツまで夜延よなべをいたしていましたが、或晩あるばんの事しぼりだらけの蚊帳かや
虐待ぎやくたいはずゐぶんひどいやうです。或晩あるばんなぞ、鉄瓶てつびん煮湯にえゆをぶつかけて、くびのあたりへ火焦やけどをさしたんでせう。さすがにおどろいて、わたしのところへやつてたんです。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お君はその後二、三度尋ねて来て、わたしが気をもむのもかまわず、或晩あるばんとまって、翌朝あくるあさもお午頃まで居てくれた事がありましたが、それなりけり。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
加之それに用心深ようじんぶか其神経そのしんけいは、何時いつ背負揚しよいあげて、手紙てがみさはつたわたしにほひぎつけ、或晩あるばんつまつた留守るすに、そつ背負揚しよいあげしてると、手紙てがみはもうなかにはなかつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
或晩あるばん竜子は母と一緒に有楽座ゆうらくざ長唄ながうた研精会の演奏を聞きに行った時廊下の人込ひとごみの中で岸山先生を見掛けた。岸山先生は始めて診察に来た時の無愛想ぶあいそな態度とはちがって鄭寧ていねい挨拶あいさつをした。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)